case1 長田 真由の場合

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「あー、ほんと、簡単な子だこと」 あの耳障りなアラームに叩き起こされてからぴったり24時間後、私はカプセルに身を横たえながら、呟いた。 それが聞こえているのかいないのか、アンは何時もの愛らしい笑顔のまま、こちらを見つめている。 きっと、私が準備出来たのかどうかを確認しているのだろう。 私は、アンに軽く頷いてみせると、ヘッドセットを着け、スライドドアを閉じてOKだと合図を出す。 私の合図に、スライドドアを静かに閉じるアン。 けれど、この時ーー実は、私はわざとアラームをかけていなかった。 何故なら、現実世界で今日から丁度8日後が私の願いが叶う、儀式の成就日なのだ。 本来ならば、1日空けて、また行けば良かったのだろう。 だが、この時の私は、それを待てなかったのだ。 あの世界での甘美な日々は、私から忍耐力を完全に取り去ってしまっていたらしい。 それにーー (大丈夫。1日位遅れても、アンならきっと、また笑って許してくれるわ。だって、私はアンの『特別』なんだもの。それに、早くニコラが傅く姿が見たい!) そんな、目眩がする程甘い誘惑が思考の全てを支配し、私から正常な判断力を完全に奪っていた。 こうして、大きな過ちを犯したまま、私の心と意識は、再び夢の楽園へと沈んでいったのだ。
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