case1 長田 真由の場合

2/31

27人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
「綺麗……」 猫のエメラルドとサファイアの瞳に見つめられ、暫し佇む私。 オッドアイの猫自体初めて見たが、そもそも、ここまで美しい猫も見たことがない。 (まるで、絵本や絵画の中から抜け出して来たみたい) 私がぼんやりそんなことを考えていると、不意に猫が踵を返して歩き始めた。 (ああ、この猫も家に帰るのかしら?) そう思いながら、私が何の気なしに歩き出した猫を見つめていると、猫がくるりとこちらを振り向いた。 「えっ?」 一瞬、猫の宝石の様な瞳と私の視線が交錯する。 その瞳は、まるで私に何かを訴えかけている様だ。 (もしかして……) 「私に、ついて来いっていうの?」 すると、私の言葉を肯定する様に、猫が一声大きく鳴いた。 「ニャア」 きっと、これは肯定だ。 来いということなのだろう。 「いいわ、ついて行ってあげる」 (本当は、今夜は早く帰って……お気に入りの店のケーキを買って、自分の誕生日を祝うつもりだったのだけど) 残業して遅くなった今としては、最早何処に寄り道をしようと同じことだ。 「今からどんなに頑張ったところで、もうケーキ屋さんは閉まっちゃってるしね」 何処へなりと付き合ってあげる。 きっと帰りは遅くなるであろう覚悟を決めて、私は猫についていくことにした。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加