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「綺麗……」
猫のエメラルドとサファイアの瞳に見つめられ、暫し佇む私。
オッドアイの猫自体初めて見たが、そもそも、ここまで美しい猫も見たことがない。
(まるで、絵本や絵画の中から抜け出して来たみたい)
私がぼんやりそんなことを考えていると、不意に猫が踵を返して歩き始めた。
(ああ、この猫も家に帰るのかしら?)
そう思いながら、私が何の気なしに歩き出した猫を見つめていると、猫がくるりとこちらを振り向いた。
「えっ?」
一瞬、猫の宝石の様な瞳と私の視線が交錯する。
その瞳は、まるで私に何かを訴えかけている様だ。
(もしかして……)
「私に、ついて来いっていうの?」
すると、私の言葉を肯定する様に、猫が一声大きく鳴いた。
「ニャア」
きっと、これは肯定だ。
来いということなのだろう。
「いいわ、ついて行ってあげる」
(本当は、今夜は早く帰って……お気に入りの店のケーキを買って、自分の誕生日を祝うつもりだったのだけど)
残業して遅くなった今としては、最早何処に寄り道をしようと同じことだ。
「今からどんなに頑張ったところで、もうケーキ屋さんは閉まっちゃってるしね」
何処へなりと付き合ってあげる。
きっと帰りは遅くなるであろう覚悟を決めて、私は猫についていくことにした。
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