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そうして、猫について歩くこと数分。
私は、見慣れぬ一軒の店の前に立っていた。
店の前に置かれた古びた木製の看板には、『喫茶 金鎖(きんぐさり)亭』と彫られている。
(でも、この辺りにこんな店あったっけ?)
私は基本的に、昼食は会社の外で食べている。
なので、この辺りーー会社の周辺の店には粗方行ったと思っていたのだが。
「見落としてたのかしら」
しかし、こんな変わった雰囲気の店、見落とす筈がない気もする。
そう思う程、その店は一種異様な……独特の空気を纏っていた。
看板と同じ位古びた木製の扉、びっしりと緑の蔦の絡み付いた壁、そして、アンティークな雰囲気の総ステンドグラスの窓。
あの窓に描かれた、金色の鎖の様な藤に似た花……あれがもしかして、ここの店名の『金鎖』なのだろうか。
よく見ると、同じ花の形をしたランタンが店の入り口の軒先にも吊るされている。
淡く光を放つランタンが、幻想的で妖しくも美しい。
まるで、眩しい光に惹きつけられた蛾の様に、私がぼぅっとランタンに見入っていると、足元であの猫が一声鳴いた。
「ニャァオ」
私を正気に戻す様なその声に、はっと我に返る私。
すると、それを見届けた猫が店の方へと向かって行った。
そうして、重厚な木製の扉に作られたキャットドアから、するりと店の中に入って行く。
「あ?!ちょっと待ってよ!」
慌てて、猫に続く私。
(ここまで来たら、もう、ええいままよ!)
私は、思い切って、幾つもの花が彫刻された美しいドアを押し開けた。
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