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客の到来を知らせる様に、カランカランッと軽快な音を立てて鳴るドアベル。
店内に一歩入った私は、思わず息を飲んだ。
「わ……」
なんて幻想的な場所なのだろう。
ステンドグラスから射し込む月の光が、市紅茶色の木製のテーブルに、優しい色を描き出している。
鼻孔をくすぐる芳醇な香りは、挽きたてのコーヒー豆の香りだろうか。
でも、それだけじゃない。
(何か他に……淡い、花みたいな香りがする様な……)
そう思って辺りを見回すと、私は、天井から沢山のドライフラワーが吊り下げられていることに気がついた。
(ああ、これの香りだったのね)
と、妖しい程の店の美しさに見入っていた私に、不意に声がかけられる。
「いらっしゃいませ、お客様」
少し驚いて、私が声のした方に目を向けると、店の奥のカウンターの中からこちらを見つめる男性と目が合った。
「どうぞ奥へ……お好きな席におかけください」
彼の甘いテノールに導かれる様に、ふらりとーー店の奥へと進む足。
私は、カウンターの彼の目の前に、腰を下ろした。
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