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「メニューでございます」
そう言って、私の前に葡萄茶色の革で装丁された薄い冊子を差し出す男性。
けれど、私はメニューより、その男性に夢中だった。
(なんて綺麗な人なのかしら)
首の後ろでゆったりと結んでいる彼の髪は、白に近い金髪で、一本一本が月の光の様に、照明を反射してきらきらと光っている。
黒いシャツの上に羽織られた、黒みがかった銀色のベストも、鳶色のネクタイも、とてもよく彼に似合っていた。
すると、中々メニューすら開かない私に困惑したのだろうか。彼の方から私に声をかけてきた。
「お客様、うちはコーヒーがお勧めなんですよ」
そう言って、ペリドットの瞳を細める男性。
私はそんな彼から視線を外せないまま、
「じゃぁ、それを貰おうかしら」
と、注文していた。
「畏まりました」
慣れた仕草で、男性が恭しく頭を下げる。
(所作まで綺麗なんてずるいじゃない)
そんなことを思いながら、私は頭の片隅で、
(ああ、でも、きっとこの人が彼氏だったら、職場の奴等を見返せるし、自慢出来るのになぁ)
と、ぼんやり考えていた。
私の浅はかな考えを知ってか知らずかーー全てを見透かした様な瞳で、もう一度私に微笑む男性。
そうして、彼は慣れた手つきでコーヒーの生豆の焙煎を始める。
決して広くはない店内に、先程より芳醇で濃厚なコーヒー豆の香りが、ふわりと広がっていった。
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