case1 長田 真由の場合

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暫く後。 「お待たせしました」 そう言って、微笑みながら私にコーヒーを差し出す男性。 チェーン店等の量産品と、色も香りも全く違って見えるのは、きっと、気のせいではないだろう。 「いただきます」 そう告げて、先ずは一口ーー私はコーヒーを口に含む。 (凄い……) なんと言う雑味の無さだろう。 とてもクリアで、コーヒーの味と香りを体全体で深く感じることが出来る。 それに、シルクの様なこの滑らかな喉越しも本当に見事だ。 「こんな、本格的で美味しいコーヒー、初めて飲みました。私、毎日通っちゃいそうです」 思惑や打算なんて抜きに、素直に賛辞を伝える私。 男性は、その言葉にとても嬉しそうに微笑んだ。 「そう言って頂けると、とても嬉しいです。ありがとうございます、可愛らしいお客様」 (可愛らしい?!) 男性の言葉に、私は、顔が一気に熱くなるのを感じる。 と、カウンターの上のケースから、徐にショートケーキを取り出す男性。 そうして、彼はそれを美しい白磁の皿に乗せると、私の前に差し出して来た。 「あの……私、ケーキは頼んでないんですけど……」 彼の突然の行動に戸惑う私。 すると、彼は悪戯っぽく微笑んで、その長い人差し指を唇に当ててみせる。 「お客様は、本日最後のお客様ですから。これは、私からのサービスです」 その彼の甘やかな言葉に、仕草にーー私は、お酒を飲んでもいないのに酔っている様な、不思議な感覚を感じていた。
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