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暫く後。
「お待たせしました」
そう言って、微笑みながら私にコーヒーを差し出す男性。
チェーン店等の量産品と、色も香りも全く違って見えるのは、きっと、気のせいではないだろう。
「いただきます」
そう告げて、先ずは一口ーー私はコーヒーを口に含む。
(凄い……)
なんと言う雑味の無さだろう。
とてもクリアで、コーヒーの味と香りを体全体で深く感じることが出来る。
それに、シルクの様なこの滑らかな喉越しも本当に見事だ。
「こんな、本格的で美味しいコーヒー、初めて飲みました。私、毎日通っちゃいそうです」
思惑や打算なんて抜きに、素直に賛辞を伝える私。
男性は、その言葉にとても嬉しそうに微笑んだ。
「そう言って頂けると、とても嬉しいです。ありがとうございます、可愛らしいお客様」
(可愛らしい?!)
男性の言葉に、私は、顔が一気に熱くなるのを感じる。
と、カウンターの上のケースから、徐にショートケーキを取り出す男性。
そうして、彼はそれを美しい白磁の皿に乗せると、私の前に差し出して来た。
「あの……私、ケーキは頼んでないんですけど……」
彼の突然の行動に戸惑う私。
すると、彼は悪戯っぽく微笑んで、その長い人差し指を唇に当ててみせる。
「お客様は、本日最後のお客様ですから。これは、私からのサービスです」
その彼の甘やかな言葉に、仕草にーー私は、お酒を飲んでもいないのに酔っている様な、不思議な感覚を感じていた。
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