case1 長田 真由の場合

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(こんな素敵な人が……出逢ったばかりの私にプレゼント?) 何かおかしいのではないか、そう頭の片隅で警報が鳴るが、私は聞かなかったことにする。 何故ならば、 (だって、当然じゃない?私は特別なのだから!とっても可愛い、神様に選ばれた存在なの!だから、こんなこと、当然なのよ!今までの方が間違っているんだわ!) そう、これでこそ、私の人生なのだ。 「ありがとう、是非受け取らせて頂くわ」 だからこそ私は、彼の申し出を快く受け入れた。 彼に手を引かれ、お客は誰もいないフロアを歩く私。 (一体、何処に連れて行くつもりかしら?) でも、イケメンに手を引かれて歩くのも悪くはない。 (ふふっ。いっそ、このまま時が止まってしまえばいいのに) 私がそんなことを考えていると、前を歩く彼が、ふとその足を止めた。 (残念だけど、着いてしまったのかしら?) 何があるのが見ようと、彼の横から顔を出そうとする私。 すると、同時に彼が振り返る。 「どうぞ、こちらです。お客様」 彼が微笑みながら、そう手で示す先ーーそこには、大きく花が彫刻された二枚の木製の扉があった。 一枚には『菖蒲』、もう一枚には『マリーゴールド』がとてもリアルに彫り込まれている。 (まるで、本物の花みたい) その彫刻のあまりの精緻さに、思わず息を飲む私。 と、目の前の彼がマリーゴールドの扉に手をかけ、微笑んだ。 「さぁ、この中ですよ」
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