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しかし彼女の腹は少したるんでいた。さらに彼女の後ろをよちよちついて歩く子猫を見て、私は愕然とした。
そして落胆した。
子猫たちは、見事なまでに真っ白なのである。
にいにいと、まだ猫の言葉も話せない白い団子猫たちは、母猫のあとを必死について歩く。
彼女は子に気遣うこともなく、凛とした姿で道を行く。横を通り過ぎる際、彼女の視界に私が一瞬映り込んだであろう。それが奇跡でさえあった。
やがて彼女一家は、とある門の隙間に吸い込まれていく。それは、彼女の姿に似た白の壁が美しい家である。
私は姿勢よくそれを見送ったあと、世の無常を感じた。
「お知り合いですか」
「昔の女さ」
私はつまらぬ意地を張った。男の悲しいさがである。そして相手が男であれば、この意地を理解してしかるべきである。
先生はふんわり笑うばかりでそれ以上の追求はしなかった。
やがて無言となった二人の間に春の風が届く。
顔を伏せて歩いていた私は、先生の足に頭をぶつけて、立ち止まった。
「ああ、猫殿」
「先生。どうしたのだ。私は今、世の儚さを感じて忙しい」
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