梅雨も上がれば

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「先生が酒とは珍しい」  周囲に人がいないことを確認して私は人の言葉を口にする。 「覚えてませんか」  先生は荷物を抱えて歩きながら、静かに笑った。 「今日は、一年前、あなたと初めて出会った日ですよ」  むわっとした熱気が私の耳元を通り過ぎる。  思えば、彼と出会ったのは、昨年の梅雨の頃。今年と違って、昨年はよく雨の降る梅雨であった。  太陽は沈み西の端から闇が引き上げられ、時刻はすっかりと夜となった。  私は体を舐めることに忙しく、先生は酒を飲むのに忙しい。  狭い部屋なので、どうしたって二人の距離は近く、私の尾が何度も先生の膝を叩いた。 「しょうせつか、は金を儲けれられるのではないか。こんな狭苦しい部屋でようよう我慢できるものだな」 「広い家は苦手なのです」  新鮮な鮎は、肝のついたまま焼き魚になった。先生は塩焼きで私は素焼きだ。  骨までじっくり焼かれた一匹が私の前に差し出された。  骨をかじって、肝まで食らう私を眺めながら、先生は鮎を静かにつついてちびちびと酒を飲む。 「広い家だと角にこう……不気味な化け物がおりそうで」  先生は酒臭い息を細く吐いた。
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