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「狭いと幽霊も、入り込まないような気がして、心地がよいのです。猫殿には狭くて申し訳がないですが」
部屋が狭かろうが、不可思議な生き物はあちこちにいる。
しかし恐がりの先生のため、言わないでおくことにした。そうした優しさもあるのだと、私は最近知った。
「ところが猫殿がこの家に来てからというもの、不思議なことに恐ろしいという気持ちがなくなったのです」
先生はしみじみと呟いて、鮎をつつくのをやめた。
「人の言葉を喋る猫の方が恐ろしいからではないか」
「人だってにゃんというのだから、猫が人の言葉を喋ったところで不思議はないでしょう」
先生が、私と出会ったときと同じようなことを言った。
そういえば先生と出会ったのは、昨年の今。梅雨の空の下である。
いつまでもやまない雨に鬱々と私は軒先で雨宿りをしていた。
猫ならばいくらでも雨を避けられる場所はある。屋根の隙間、家と家の間。
しかし居心地のいい場所には、すでに先住猫がいるものだ。私は人の言葉を理解しない猫を、馬鹿にすることにしている。
その気持ちが顔にでているのか、私は普通の猫と気が合わなかった。
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