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巡のまゆ毛がぴくりと動く。
「ならねえよ。なるわけねえだろ」
「そんなことを言えるのは、お前が何もわかってないからだ」
軽い舌打ちの音。俺を見下ろす表情が苛立たしげにゆがんでいる。その顔を見ただけで、俺の心臓は凍り付いた。
「わかってないのはお前の方なんだよ。いいから言えよ。絶対引かないから」
体がぴったりと合わさり、全身で巡の重みを感じた。逃げようにも体を動かせない。
このままでは、伝わってしまう。
荒ぶる心臓から、いつもより高い体温から、熱で硬くたちあがったその場所から。
俺の体すべてで、巡に欲情していることが。
怖くなって、また瞳が潤む。
嫌だ。気づくな。
「引かないなんて簡単に言うな。お前は想像できてないんだよ」
俺が、今どんな想いでお前を見上げているのかなんて。
巡の指先が、俺の唇をふにふにとまさぐった。たったそれだけなのに、快感が全身をかけめぐる。
「俺、知ってるから。お前が俺に隠していること、全部」
まっすぐに視線がぶつかる。巡は俺の両足の間にひざを割り込ませ、そのまま体重をかけた。
直後、強烈な刺激がせりあがってくる。
や、べ・・・
「話してくれたら、いいことあるかもよ?」
そう耳元でささやかれると、吐息が敏感なところにあたり体から力が抜けた。
次の瞬間。
「ん、っあ・・・!」
びくびくと全身が震え、視界が真っ白にはじける。下着の中に、じんわりと熱が広がる。巡が息を呑むのがわかった。
まずいと思っても痙攣はなかなかおさまらなくて、しばらくぼうっとした頭で、腰を揺らし続ける。
心地よくて、このまま何もかも忘れて眠ってしまいそう、と思った刹那、くぐもった声が耳の届いた。
ハッとして顔を向けると、巡が口元を手で覆っている。長めの前髪に隠れて表情は見えないけれど、その肩は震えていた。
血の気が引いていく。
あわてて巡を突き飛ばすと、そのまま尻もちをつくように後ろに倒れ込んだ。乱れた髪の隙間から視線がのぞき、俺は固まる。
「巡?」
この中性的な親友は、中性的だと思っていたこの男は、細めた瞳をぎらぎらと反射させながら、頬を上気させ荒く息を吐いていた。
野生の獣のようなその顔は、俺の知っている巡ではなかった。
恐怖で思わず、身がすくむ。
誰だ、こいつは。
「それ、大丈夫なの」
顔をそらし、巡がぽつりとつぶやく。視線が外れると俺はようやく我に返り、急いで立ち上がった。
「・・・帰る」
「は?」
脱ぎっぱなしだった上着を羽織ると、そのまま部屋のドアノブに手をかける。手をひねろうとしたところで、後ろから腰に手を回された。びくりと固まると、巡は俺の頭に顔をうずめた。
「着替えなら、貸すけど」
「いらねえ」
ふいに唇が頭皮に触れた。柔らかい感触に、かつて唇をかさねたことを思い出してしまう。また体が反応してしまいそうなのをぐっとこらえ、俺は巡を押しのけた。
「手、どかせ。帰るから」
「でも、まだ話終わってない」
「話すことなんてねえんだっつの」
自分と巡との間に無理やり隙間をつくると、巡は低めた声でぽつりとつぶやく。
「・・・あっそ。ならいいよ」
なんとなく不穏な雰囲気を感じたけれど、自分のことでいっぱいいっぱいの俺には、巡を気に掛ける余裕はない。
俺はそのまま振り返らず、巡の部屋を後にした。
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