俺からいちばん、遠いもの

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「なあ、これ読んでいい?」  巡が本棚に手を伸ばし、俺が集めている少年マンガの最新刊を手に取り、床に腰を下ろした。そのままベッドを背もたれに、ひらひらとマンガを振りかざす。 「いいよ」  俺はベッドの上に横たわると、スマホを開いて未読だったメッセージを読み進めていった。そのまま静かに時間が流れ始める。  昔は平気だった沈黙が、なぜか今はひどく緊張するようになってしまった。意識していることをごまかすように、大げさに何度もあくびをする。  ときどき横顔を盗み見ては、そのまま見惚れて、はっと我に返り目をそらす。  本当はずっと眺めていたいけれど、自分の視線に宿る友情とは違う感情を自覚していたから、もしも視線がぶつかってしまった時に、その想いを悟られてしまいそうで怖かった。  巡は、小学生だった頃から今でもずっと、女子によくもてる。  格好よさにも可愛さにも振り切っていない中性的な顔立ち。すらりと背は高く、男らしくしっかりした体つき。人懐っこくて誰にも壁を作らず、男女問わず、誰とでも簡単に打ち解けることができた。  他の男子はいつしか巡に嫉妬して、束になって巡に暴言を吐いたり無視したりすることがあったけれど、俺はどんな時でも、時には自分も一緒になってはぶかれることもあったけれど、決して巡から離れることはなかった。  気づくと、マンガを読んでいる巡に視線が吸い寄せられてしまう。やばいと目を背けた時ふいに、巡から名前を呼ばれた。  のぞき見がばれたと思ってどきっとしたけれど、巡はマンガから目をそらさずに、予想外の言葉を吐いた。 「なあ。なんで彼女作らないの」  一瞬きょとんとして、けれど俺はすぐに自分が放つべき言葉を思い出した。 「お前なあ・・・。作らないじゃなくて、作れないんだよ。俺はモテないから」  巡はぱたんとマンガを閉じて、まっすぐにこちらを見る。瞳は真剣で、からかいなどは一切なかった。 「そういうのいいから。俺知ってるんだよ」  非難するような、悲し気な瞳。 「知ってるって、何を・・・」 「お前この間、安田さんに呼び出されてたよな?その前は久本に。あれって全部告白だろ?彼女が欲しいなら、何で振ったんだよ」  今度は違う意味で心臓が跳ねた。  何でそれを。こいつにはバレないようにうまく隠していたのに。  俺が黙ったことで、巡の顔はますます辛そうににゆがんだ。 「俺ずっと、安田さんに恋愛相談されてたんだ。告白を後押ししたの、俺だし。お前俺に、安田さんのことちょっと気になるとか言ってたから、絶対OKすると思ってたのに」
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