俺からいちばん、遠いもの

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頭が真っ白になる。指先からすうっと温度が失われていく。 「俺けっこう、お前と仲いいと思ってたんだけど。何で何も言ってくれねえの」  どういう顔をすればいいのかわからなかった。少しでも表情を動かしたら、何かが伝わってしまいそうで。 「もしかして安田さんのこと気になるって嘘だった?好きな人いるってのも嘘?」 「・・・好きなやつは、いる」 「それを俺にごまかすってことは、俺は洋から信用されてなかったんだな」  巡は困ったように笑った。   「心配しなくても、洋の好きな子を横から奪ったりなんてしないよ」  それは、かつて巡がいじめられていた時に流れた最低な噂だった。 「違う!そんなこと思ってないから」  全く信じていなさそうな表情で、苦し気に巡は微笑んだ。自分の心臓のあたりが握りつぶされたように痛みだす。思わずうめき、涙腺が緩んだ。  違う。本当にそんな風に思ってないんだ。 「洋。じゃあ好きな子って誰?・・・もしかして吉岡さんだったりする?」  恐る恐るといった様子で、巡は尋ねる。俺は勢いよく首を横に振った。  巡はほっとしたようにため息をついた。 「ていうか何で吉岡さん?」 「実は、付き合い始めたんだよね。最近」  とっさに反応ができなかった。全ての感情がなくなったように冷え切っていく。動揺して心臓が激しく脈を打つごとに、頭が痛んでめまいを起こしそうになった。 「洋?」  けげんそうな表情を見つめ返しながら、何とか口角をあげて言葉を紡ぐ。 「まじかよ。先越されたし」  巡はあの人懐っこい顔で笑った。  その日、せっかくだからと巡を俺の家に泊まらせた。夜が更け暗闇に目が慣れた瞳を、俺はそばで寝息をたてる巡にじっと向けている。  もう眠ってしまったのかを知りたくて、名前を読んでみるが返答はない。  最近付き合い始めたって、いつからだろうか。もうキスはしたのかな。これからするのかな。もしそうなら、こいつのはじめては・・・  俺はこぶしを握り込んだ。  ゆっくりと体を起こすと、ベッドが軋んだ音をだす。もう一度名前を呼ぶが、聞こえてくるのは規則正しい寝息だけ。  巡に顔を近づけると、軽く開かれた口元に自分の唇を押し付けた。唇が熱くて柔らかくてくらくらする。巡の目元がピクリと動いた。気のせいか、巡の呼吸が一瞬止まった気がした。  俺は慌てて唇を離すと、そのまま背を向け、朝まで寝たふりを続けた。
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