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このままではいけない気がした。
自分の中の欲求が、コントロールできないくらいに膨れ上がっていく予感があったから。
その日から俺は、家でも学校でも、なるべく巡と二人きりにならないように気をつけた。
家に来たいという巡をなるべく遠回しに拒絶し、自分が変な気を起こす機会だって減らした。
けれど。
「洋。これ、巡くんの家に持っていってくれる?」
リビングでマンガを読んでいると、母親から紙袋を手渡された。中には高級そうな菓子折りが。
「この前巡くんにお土産もらったでしょう。ちょっと遅くなっちゃったけど、それお返しね」
巡に土産をねだったのは俺だ。さすがに断ることができず、俺は重い足取りで巡の家に向かった。
『はい』
「俺だけど」
『・・・ちょっと待ってて』
ドアのチャイムを鳴らすと、すぐに巡が開けてくれた。
「ラインくれればよかったのに」
俺が菓子折りを渡すと、巡は苦笑しながら言った。
「・・・別に。すぐ帰るつもりだったし」
「あがってけよ」
「いいよ。帰る」
きびすを返そうとする俺の腕をつかんで、巡は辛そうな声をだす。
「待てよ。なあ、なんで最近俺を避けんの。俺なんかした?」
思わず罪悪感が芽生える。けれど、正直に話せることなんて何もなかった。俺はなるべく自然に見えるように笑ってみせた。
「避けてないから。ただ今日は、その、見たい番組があって」
「俺の部屋で見ればいいじゃん」
俺はぐっと言葉に詰まる。
「洋。俺らって友達だよな?」
真剣なその声は、まっすぐに俺の答えを待っている。
「そうだよ」
「なら、あがって、一緒にゲームしよ?俺一人じゃクリアできないんだ」
子犬みたいにすがるような響き。なんだか断れなくなって、俺はしぶしぶ首を縦に振った。
さすがに逃げ続けるのも限界だし、家には巡の家族だっているんだから自分も変な気は起こさないだろう。
そんなことを考えながら玄関に足を踏み入れると、やけに靴の数が少ないことに気づいた。
「あれ、親でかけてんの?」
「ん?・・・いや、いるよ」
そうか、と、その時はそれだけ答えて、家の中へと進んでいく。
久しぶりに入る巡の部屋は、相変わらずきれいに片付いていた。後ろ手でドアをしめると、静かになった室内で、ひどく落ち着かない気分になった。
適当に座ってと言われ、俺はその場に腰を下ろす。
「お茶飲む?」
俺の隣に腰を下ろした巡。そのまま床に寝そべり、スマホをいじり始める。
「いや、いい。・・・ていうか何してんの」
「んー、スマホ」
「それはわかるけど」
猫みたいに気まぐれなことを言って、巡は大きく伸びをする。
「なんか洋といると、居心地が良くてだらだらしたくなる」
そんなことを言ってにこにこと柔らかく笑うから、切ないようなたまらない気持ちになるんだよ。
「なんだそれ。俺いる意味ねえじゃん」
「そんなことないって。あ、帰るなよ?」
巡がそのまま俺の太ももに手を置いた。
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