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【第一部】正すべき世界
「明日か…」
大きな満月が屋上に立つ青年を照らしている。
青年は絶対に満月を視界に入れないようにしながら、眼下に広がる街並みを眺めていた。
厚生労働省麻薬取締部捜査一課の麻薬取締官、鏑木旭陽は翌日に潜入捜査を控えていた。
現在、この国には犯罪シンジゲートにより新種のドラッグがばら撒かれ、それによる事故も多発していた。
マトリも態勢を変えるため、「麻薬取締部LWN取締対策本部」が設置され、捜査一課が中心となって対応に当たっている。
そして鏑木は、その犯罪シンジゲート「クリエーション」におとり捜査として潜入するのだ。
同じ一課であり、鏑木の先輩にあたるマトリ、御影樹三週間前に既に潜入している。できるだけ怪しまれないように、わざと潜入時期をずらしたのだ。
鏑木は、すっかり冷めた缶コーヒーの中身を喉に流し込んだ。
「やっぱりここにいた」
鏑木が振り返ると、白衣を着た青年がコピー用紙を片手にこちらに近づいてきた。
鏑木の同期であり、高校時代からの親友の秋月光夜だ。
秋月は鑑定課に所属する鑑定官である。秋月は元々、麻薬取締官として捜査二課に所属していた。しかし捜査中の足の大怪我により、最近鑑定課に異動したのだった。
「デスクにいなかったから屋上にいると思ったんだ。はい、これ」
秋月から手渡されたのは入手したLWNの鑑定依頼結果の報告書だった。
「わざわざ悪いな。えーと……なるほど。やはりLSDも合成されていたんだな」
「ああ、幻覚作用はこのせいだと思う」
危険ドラッグLWN(Lunatic Wolf Nightmare)は約半年前から出回り始めた新種のドラッグだ。しかし、本来はとある精神病のために開発されていた薬だった。
話は一六年前に遡る。
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