6人が本棚に入れています
本棚に追加
鏑木が海を眺めながら公園を歩いていると、まだ少し冷たい風が頬を撫でた。
潜入から約三ヶ月が経過したが、今のところ怪しまれている様子はなく計画は順調だった。
鏑木は公園に設置してあるゴミ箱に空の缶コーヒーを捨てると、繁華街へと向かうことにした。
ここ、零陸市は港湾都市として有名な街だ。古くから貿易港として栄えていたため、外国風の建物も多い。
しかし零陸市は国内でもトップの治安の悪い都市でもある。そのため店は多いが住居は少なかった。
しばらく歩いていると、クラブやバーなどが多く立ち並んできた。
鏑木は早足で人混みを抜け、目的の店へと急いだ。
アミューズメントカジノ『Polestar』
目を引くネオンサインが目印のこの店は、表向きは普通のアミューズメントカジノだ。しかしクリエーションの最大の拠点でもある。
鏑木は店内に入った。内装はゴールドと黒で統一された、程よく高級感のある造りになっている。
鏑木はポケットからチップを取り出し、ディーラーに渡した。
鏑木が渡したのは、このPolestarで実際に使われているチップとは少しデザインが異なるものだった。これがクリエーションの構成員であることを表している。
ゲームを楽しむ男女を横目に、鏑木はバーカウンターを抜けて扉を開けた。従業員用の通路を抜け、地下へと続く扉を開けた。
階段を降りると、再びカジノのような部屋に出る。裏カジノとでもいうべき場所だ。ここは組織の人間がクスリの売買を行ったり、接待を行ったりする場として使っている。
「時雨さん」
「おお、温海か」
鏑木はテーブルに寄りかかっていた御影に声をかけた。
「珍しいですね。いつも週末は来ないのに」
「たまたま仕事で近くまで来たから寄ったんだよ。飲み放題だし」
御影はウイスキーの入ったグラスを掲げた。
二人はしばらく世間話をした。といっても話す内容にはかなり注意を払っている。誰がどこで見聞きしているかわからないからだ。
「それにしても人使いが荒い組織だよな。今週は一日も休みがなかったぞ」
「確かに忙しいですけど、今ここで誰か来たらどうするんですか。俺たちみたいな最下級構成員が文句とか言ってたら…」
いきなり大きな音を立てて扉が開き、鏑木はびくりと肩を震わせた。
「おい、手が空いているやつはすぐに車を回せ!」
扉を開けたのは鏑木たちの先輩にあたる構成員だった。
「何があったんですか?」
「メイン倉庫の場所がバレた。今すぐ移動させろ」
最初のコメントを投稿しよう!