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次に俺はその会社を調べることにした。もちろん彼のことも調べ続けた。二人目のインタビューからは、先に知っていることを伝え、新しい情報以外には謝礼を出さないようにした。すると、新たな情報をいくつか掴むことができた。
親が闇金に手を出していたこと。佐々木が親から虐待されていたこと。佐々木が働くための学校を辞めていたこと。どれも深く掘ると危ない情報ばかりだった。
まずはいじめられてた子の父親の企業について調べた。そこはブラック企業として有名な会社だった。案の定リストラされた人もたくさんいて情報の入手は簡単だった。金に困っている人間からは、情報がすぐに手に入る。
その会社では、社長が絶対的な権力を持っていることが分かった。人事から業務内容まで全て社長が決める。それでも業績が上がっているから誰も文句は言えなかった。リストラされた元社員は憎しみを待った目でそう話した。
さらに、佐々木の親と知り合いだった人とコンタクト出来た。能力が高く、リストラされるようには見えなかったらしい。
何人かの人の話を聞いて、会社の大体の内状はわかった。それだけ社長が権力を持っていたなら、佐々木の親がクビになったのは間違いないだろう。
そうなると、闇金の噂も本当かもしれない。俺は少し身震いした。
ライターの先輩が闇金と関わって大変な目にあった話を聞いたことがあった。情報が集まることは嬉しいが、出来れば闇金とは関わりたくなかった。ただ、俺は今の仕事を全部捨ててこの取材に挑んでいる。これで失敗したら本当に人生が終わる。まさに背水の陣だった。
俺は佐々木の親が出入りしていたという噂の闇金業者に来た。明らかに違法な空気の漂う店構えだった。俺は震えそうになる体を押さえつけ、店に入った。
店の中には債務者と思しき男が、チンピラのような男の前で土下座していた。
店内に流れる以上な空気に、俺は吐き気がした。舌の奥が酸っぱかった。
俺に気づいた、違うチンピラが声をかけてきた。
「お客さま、何か御用ですか?」
見た目からは想像もつかない丁寧な口調に、気が緩みそうになった。ただ、これが闇金の常套手段であることは分かっていた。
「佐々木さんをご存知ですか。」
俺の問いかけに、俺が客じゃないと判断したチンピラは一気に乱暴な口調になった。
「知らねーよ。」
俺は逃げたくなる気持ちを抑え、再び質問した。
「佐々木さん、ここでお金を借りていませんか?」
俺が質問するや否や、チンピラの一人が俺の胸ぐらを掴んで怒鳴りつけた。
「知らねーって言ってるだろ!」
軽く押し倒される形で、俺は地面に転がった。起きあがろうとする俺の前に、チンピラたちをまとめていたスーツ姿の男が立っていた。
「そんなこと知ってどうするのです。」
男の声は、ねっとりとして耳障りだった。おそらく表の人間ではないだろう。
俺は吹っ切れていた。なんとしても情報を聞き出そうと思った。
「佐々木さんの息子が自殺した話は知っていますか?」
この質問は男にとって予想外だったようだ。
「それはどういうことです?」
男は丁寧な口調のまま質問し返してきた。俺が男より下の立場にいるように錯覚してしまう。
「ここで怯んだら負けだ」
そう思った俺は、強い態度を崩さず答えた。
「あなたが佐々木さんのことを教えてくれたら答えましょう。」
「お前何様のつもりだ!」
チンピラの一人が、また俺の胸ぐらを掴んできた。
「辞めなさい。」
男の静かな声に、チンピラは大人しく従った。
「いいでしょう。教えて差し上げます。確かに佐々木さんは私たちのお客さまですよ。」
男は静かに答えた。俺は嬉しくなった。確かな情報を手に入れた。
「では私の質問に答えてください。佐々木様の息子が自殺したのは本当ですか?」
男は全く変わらぬ態度で聞いてきた。
「本当です。理由に心当たりはありますか?」
俺は男の目を見て正直に答えた。駆け引きが通じるような相手ではない。
男は少し考えた後、何かを思い出したかのようにつぶやいた。
「そう言えば…。」
「そう言えば、なんです?」
俺の質問に男は何も答えなかった。
「これ以上は申し上げられません。」
男の言葉には拒否できない威圧感があった。俺は気圧されるように、後退りながら闇金を出た。
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