プロローグ

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プロローグ

平日の午前11時。 都内にあるシティホテルのロビーには、時間にゆとりのある年配の客か、ビジネスマンの姿しかない。 広々としたロビーの中心には大きな花瓶があり、それを取り囲むようにソファーが置かれている。 宮沢 亜希(みやざわ あき)は、端に置かれたソファーに座る男性を、目立たないよう細心の注意を払いながらそっと覗いていた。 花瓶の中には、色とりどりの高級そうな花が、豪華絢爛に生けられている。 亜希は柱の陰に立ち、花瓶の反対側にいる男性の動向が気になっていた。 視界に入るその花々は、心定まらない亜希の気持ちを癒してはくれないが、姿を隠してくれるものとしてはちょうど良かった。 さっきから鼓動が激しく脈打ち、手に変な汗をかいている。 視線の先にある男性、それは夫の(つかさ)だった。 背は180近くあり、切れ長の目で鼻筋の通る整った顔立ち。そのため、昔から女性に苦労したことはないらしい。 亜希自身も、自分の夫だというのに、時々見惚れてしまう時がある。 ここで様子を見ているのには理由があった。 普段通りに出掛けた司の仕事は事務職であり、この時間は職務中なはず。 それに司は、普段フチなしの眼鏡をかけている。それなのに、ここにいる彼の顔にメガネは無い。 どうして、司はこんな場所にいるの? どうして、メガネをしていないの? 亜紀の疑問は膨らむばかりで、安心できる要素があるまではここを離れることができなかった。
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