9人が本棚に入れています
本棚に追加
「さむーーい」
赤いマフラーに顔を埋めながら思わず声が出た。今年一番の寒さだと思った。こんな寒い朝に大学に行かないといけないのは、心理学の先生がやたらに出席を取る面倒臭いタイプの人だからだ。
そういえば、雪が降るって天気予報で言っていたななんて思いながら、泣きそうな空を見上げる。
ん?
空からキラっとしたものが見えた。雪?
今年初めての雪だ。いくら寒くても初めての雪は何かしらわくわくしてしまう。もう一度空を凝らしてみた。目をこすってもキラキラしたものは見えなかった。
見間違いだね。少しの残念と少しの安堵感を抱えて歩き出した。ブーツが凍った地面をコツっと鳴らす。
「おじょうちゃん」
地面から老婆の声がした。
「ん?」
私は二度見した。いやいや、見間違いであって欲しい。まさかこんな寒い朝に、小さなおばあちゃんがベンチに座っていた。っていうかここって住宅街だし、ここにベンチなんて無かったよね。困惑している私にもう一度老婆が話しかける。
「もしもしお嬢ちゃん」
「......はい」
私はお年寄りには親切な方だ。だけど、あまり関わっちゃいけない雰囲気だ。黒いマントを被って魔女みたいだ。
「占ってあげよう」
「いいです」
私はお年寄りには親切な方だ。でも自分の意見ははっきり伝える方だ。
「そこに座りなさい」
きいちゃいない。
最初のコメントを投稿しよう!