結婚へのカウントダウン

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それからのことは、よく覚えていない。 雨音が、僕を庇って何かを言ってくれたのはわかるが、何を言ったのかは聞こえなかった。 雨音の父親は、首を横に振っていた。 雨音もまた、首を横に振っていた。 雨音の母親は2人の間に入って、2人を止めようとしていた。 そして、そんな場面を見ながら、僕は一歩も動けない状態になっていた。 なんて自分は情けないんだ……。 そんな風に思った記憶だけが、最後に残った。 その後は雨音に促されて、そのまま外に出て、町をぶらついた。 共に帰るための電車が来るまで。 でも、僕は、雨音の横に立つのが申し訳なくて、少しだけ彼女の後ろを歩いた。 雨音は、そんな僕に気づいて、僕の手を取ってくれた。 「社長と、一緒に来られてよかったです」 そう言いながら、雨音は久々に笑顔を見せてくれた。 それは、僕がよく知る、彼女の優しさだと思った。 「僕も……来られてよかったよ」 それは、決して皮肉をこめて言ったわけではない。 本当に、それは思っている。 今の僕では、彼女を幸せにする資格がないと判断されていることがわかったから。 彼女のこの笑顔を増やすために、もっと僕が頑張らないといけないと、認識できたから。 「雨音」 「なんですか?」 「……僕、頑張るよ」 「え……?」 僕が絶対幸せにする。 この子の笑顔を守る。 より一層、僕は覚悟をする心構えができた……つもりになっていた。 でも、僕はやっぱりまだ分かっていなかったんだ。 雨音本人が、僕に何を本当に望んでいたのか。
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