桔梗とラブレター

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桔梗とラブレター

 桔梗(ききょう)の花が咲く初夏の時期になるとよく小学2年生のあの頃を思い出す。 「桔花(きっか)ちゃん、桔梗の花言葉って知ってる?」 「知らない。この花にも花言葉があるの?」 「うん。永遠の愛」 「永遠の愛?それって夫婦とか?」  桔花が聞き返すと、植物博士こと柚貴は頷くと手に持っていた英語がたくさん書かれた包装紙でくるっと巻かれた紫色の花束を桔花に渡した。 「だから、桔花ちゃんにはこれをあげる」 「何これ?」 「桔梗の花だよ。これは造花だから本当の桔梗じゃないから枯れないしずっと咲いているからずっと飾ってられるよ」  造花?本当の花じゃない?ずっと咲いている?  桔花からしたら目の前にある紫の花はどう見ても桔梗に見える。確かに触ってみると少し硬かったり香りがしなかったりするけどこれは絶対お花だ。  桔花が不思議そうにその花を触っていると柚貴は押し付けるように白い封筒を桔花に渡した。 「僕が遠くの学校に転校しても忘れないでね」  そう言ってポカンとした顔をした桔花を置いて教室を出て行ったのが10年前に桔花が見た柚貴の最後の姿だった。  あれから10年。18歳になった今は毎日第一志望の大学に向けて受験勉強をする日々。 もう造花の意味も分かるし本当のお花と違ってずっと楽しめるお花があることも家の10年間で知った。  そんな桔花の勉強机の隅には今でも10年前の桔梗の造花が飾られていた。今どこで何をしているのか分からない10年前の柚貴が最後に渡してくれた短い手紙は小学生の頃に文具屋さんで買ったおもちゃの宝箱の中に今でも大切に保管している。 『桔花ちゃんのことがずっと好きでした』  鉛筆で彼のお姉さんの物と思われる女の子向けのファンシーなメモ帳に書かれた手紙。生まれて初めてもらった返事が返せなかったラブレター。  そんな短くて返事が返せなかったラブレターも桔花にとっては大切な宝物だった。  その宝物を今年も読み返しながら桔花は今年も想う。  これからの人生の中でどんな形でも良いからもう一度彼に再会することができたら桔花はたくさん彼と話をするんだと決めていた。  永遠の愛の意味を知ったこと。  造花がどんな物なのかを知ったこと。  彼がきっかけで今植物のことが学べる大学を目指していること。  将来の夢はまだ決まってないけど、植物に関する仕事に就くことが夢なこと。  そして、あのラブレターの返事。  植物博士な彼ともしかしたら同じ大学の同級生になれるかもしれない。  桔花はそんな淡い期待をしなかまらに赤本をの問題を解き始めた。
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