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スーパーの冷凍食品売り場、ツンと鼻を通る冷たい空気の匂い。
冬の体育館に誰よりも1番早く着いた時の背筋の伸びる少しだけの不安。
雨の日の下駄箱で皆が雨に憂いて帰る時になぜか無性に悲しくなってしまったこと。
明け方に目が覚めて裸足でキッチンに向かって飲む一杯の水と冷たい足裏。
夜露で濡れたガードレール。
光る雨粒のキラキラ。
いつもそこで待ってる僕より古い自動販売機。
全てをかっさらう冬の匂い。
朝一番で耳に入れるイヤホンの冷たさ。
全てがとてもたのしく、たまらなく好きだ。
馬鹿な事だと言われるかもしれないけれど、こうやってひとつずつ見つけてきた好きを並べていくと何故だか泣きそうになる。泣いてしまう。全てが愛おしくなる。星も空も、人も。
まるで神になったかのように手を広げ天を仰ぎながら歩く。ここはこの時間あまり人が通らないんだ。だから大丈夫。風で電線が揺れてきらりと光った。向かいの家から漏れた明かりできっと光った。またひとつ好きなものを見つけた。うれしい、だからまた泣いてしまう。冬はたまらなく、好きだ。
言葉にならない架空の歌を口ずさみ架空の歌詞で感動する。嗚呼いまのサビはきっと良かった。人には分からないような馬鹿げたことをしながら帰り道を歩く。ここらで一番星がよく見える開けた場所で首がもげるほどに天を仰ぐ。
ぎょしゃ座のカペラ、ふたご座のポルックス、こいぬ座のプロキオン、おおいぬ座のシリウス、オリオン座のリゲル、おうし座のアルデバラン。指でひとつずつ繋ぐ。僕を包むは冬のダイヤモンド。
空を見続けて空の境界線が僕の方へと降りてくるような感覚になる。
あっという間に空に飲み込まれた。
あっ、流れ星!
見たかい流れ星
全身の神経にうれしいが通って回る。
ああそうだ今ここには僕しかいない
見せたい人に、見せたくなってしまう!
嗚呼待ってまだ落ちないで!
ハロー、もう少し待って好きな人にも顔を見せて。
走ろう。
走って走って、そうだ空を閉じ込めたらどうか。
夢中で走る、足が縺れる、たのしい!
冬の狂気にさらされて踊り狂う僕はまるで赤い靴の女の子。さあほら走って走って。
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