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木下由利恵 専業主婦 28才 長女 真里奈 5才
木下直哉 リーマン 36才 長男 秀人 4才
次男 ひろみ 8年後に生まれる
森下孝蔵 彫師 29才
砂生芽衣子 夜の蝶 36才
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1.
木下直哉はクライアントへの接待で使った店で 9年振りに
学生時代から7年付き合っていた元彼女の砂生芽衣子と再会した。
9年経っても芽衣子の美貌はほとんど衰えを感じさせず
活き活きとしていて輝き、まだまだ十二分に美しく見えた。
桜の咲く頃を『花時』というが、そののち満開の『花盛り』を過ぎ、
桜は『零れ桜』となり散ってゆくのが定め。
『花盛り』にならい、『女盛り』をとうに過ぎてなお美しい芽衣子は
散りゆく定めを前に、最後の輝きを増しているのかもしれなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
付き合っていた当時、芽衣子はあっさりと木下を振り、玉の輿に乗って
どこやらの大企業の御曹司と結婚したはず。
『その芽衣子が何故この店に?』と呟いた木下は、『いるのか』と
いう言葉を飲み込んだ。
それに呼応するかのように芽衣子は、商売上というよりも昔の
元彼女という立ち位置で、その後の身の上話を木下に語って聞かせた。
それによると……
不妊が理由でたった2年やそこらで婚家を追い出されてしまった。
そこで、再度芽衣子は玉の輿を狙うべく、大企業に派遣で就職するも
独身のエリートからはお声がかからず、声をかけて来るのは
遊びが目的の既婚者ばかりだったという。
その後、本気で好きになった相手もいたが、不倫相手の妻にバレ
相手はあっさりと妻子のいる家庭に戻ってしまった。
そして会社にも不倫していたことがバレ派遣会社を首になる。
精神を病み、金銭的にも立ち行かなくなり、それで夜の世界に
身を投じることとなった。
とまぁ、直哉に語って聞かせたのはこの辺りまでのこと。
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