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3-2. 5
「とにかく俺を引き止めんな!
引き止められるような魅力もないくせに、うざいんだよっ! 」
「行かないで、その女の人と会ってもいいから。
家には帰ってきて」
なんとか夫が出て行ってしまうのだけは止めようと
悲壮な声で由利恵は頼んだ。
夫の荒げた声に、寝ていた子供達が起きてきていた。
話す言葉は大体理解できる真里奈はどこから聞いていただろうか。
気にはなったけれど、ここで夫を引き止めないと出て行ってしまう。
何か言わないと。
「私、あなたに気に入られるように勉強する。
子供達とこの家でずっと待ってる。
いつでも帰って来て、待ってるから……」
何言ってンだこの女、バーカとでも、まるで言っているような
形相でちらりと私に顔を向け、夫は一切の未練も残さず出て行った。
出て行く瞬間に秀人が『行かないでパパ』と泣いて縋ったのに
うっとおしそうにスルーして行ってしまった。
あたし、どーしよう、くじけそうになっていたら、娘の
真里奈が言った。
「ママ、だいじょうぶ、だいじょうぶだよ。
だってママには私と秀人がいるんだから。
1対3でしょ、3の勝ちだよ。
ママ、今日は3人で一緒に寝よ。
私が付いててあげる、ママが眠れるまで」
そう言うとニコっと笑って私の手を引いてくれた。
真似して秀人もニコッとして、『僕もいるよ』と言った。
「うん、そうだね、そうだよね。
ありがとね、真里奈、秀人」
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