塩評判は当てにならない。

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 僕のお祖父ちゃんが腰を痛めたのは、吹雪が冷たい二月の事だった。 「悪いのう、ジル。代わりに、家賃を貰いに行ってきてくれ……」 「良いよ。そんなのは全然良いから! だから寝て!」  お祖父ちゃんの腰に、魔法薬をたっぷり染み込ませてある湿布を貼ってから、僕は告げた。僕の言葉を聞くと、素直にお祖父ちゃんは横になった。  僕の祖父のフリッツ・ベッケルトはいくつかの借家の大家さんをしている。  一方の僕は、次の五月に王立騎士団の魔術師団の採用試験を受けるまで、暇だ。昨年の十月には世間一般の平均と同様に王都魔術学院を卒業し、一月に王国認定魔術師試験を受けて合格した。そして残りの四ヶ月は、騎士団の何処へ配属希望をするかなどの猶予とされているが、暇だ。今年で二十三歳、ごくごく平凡な小市民である。 「ジル、頼んだぞ」 「分かったから! 兎に角無理をしないようにね!」  お祖父ちゃんに念押ししてから、僕は家賃の回収に向かう事に決めた。  ――以後、三日かけて、僕はお祖父ちゃんの代理として各地に足を運ぶ事になった。
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