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「もしかして倒れていたりしますか? 大丈夫ですか? ど、どうしよう? 騎士団に連絡した方が良いのかなぁ」
ブツブツと僕が呟いた、まさにその時。
静かに扉が開いた。真正面にいた僕は激突しそうになり、慌てて後退ったが、扉自体がゆっくり開いた為、それは何とか免れた。
「何か?」
出てきたのは、上質な黒衣を纏った、長身の青年だった。艶やかな髪と瞳も同色で、夜色をしている。随分と端正な顔立ちをしていたが、眼光鋭く冷ややかな色を目に浮かべているせいか、どこか独特の威圧感がある。
「あ、おられましたか! ロベルト・シュヴァーベンさんですか? 家賃の回収に参りました!」
「確かに俺はロベルトだが……大家は、ベッケルト氏のはずだが?」
「僕はそのフリッツ・ベッケルトの孫で、ジル・ベッケルトと言います。実は、祖父が腰を痛めてしまって――これ、委任状です!」
怪訝そうな青年に対し、僕は詐欺ではないぞと証明するべく、証書を見せた。すると小さく息を呑んでから、何度か青年が頷いた。
「失礼した。すぐに用意する。待っていてくれ」
「はーい!」
踵を返した青年を見送り、待つこと五分。
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