塩評判は当てにならない。

3/34
前へ
/34ページ
次へ
「もしかして倒れていたりしますか? 大丈夫ですか? ど、どうしよう? 騎士団に連絡した方が良いのかなぁ」  ブツブツと僕が呟いた、まさにその時。  静かに扉が開いた。真正面にいた僕は激突しそうになり、慌てて後退ったが、扉自体がゆっくり開いた為、それは何とか免れた。 「何か?」  出てきたのは、上質な黒衣を纏った、長身の青年だった。艶やかな髪と瞳も同色で、夜色をしている。随分と端正な顔立ちをしていたが、眼光鋭く冷ややかな色を目に浮かべているせいか、どこか独特の威圧感がある。 「あ、おられましたか! ロベルト・シュヴァーベンさんですか? 家賃の回収に参りました!」 「確かに俺はロベルトだが……大家は、ベッケルト氏のはずだが?」 「僕はそのフリッツ・ベッケルトの孫で、ジル・ベッケルトと言います。実は、祖父が腰を痛めてしまって――これ、委任状です!」  怪訝そうな青年に対し、僕は詐欺ではないぞと証明するべく、証書を見せた。すると小さく息を呑んでから、何度か青年が頷いた。 「失礼した。すぐに用意する。待っていてくれ」 「はーい!」  踵を返した青年を見送り、待つこと五分。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

196人が本棚に入れています
本棚に追加