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無知な俺の一つの夢を叶える手伝いをしてくれた徹兄は、お人好しで有名だ。だから、金も人脈もない未熟なガキのために、徹兄は無償でギターを教えてくれた。その時初めて聞いた徹兄の音は、俺をその世界に更に引きずり込んだ。
徹兄は色んな楽器を使いこなす。俺が買ったアコースティックギター以外ににも、クラシック、エレキと自在に操り、ドラムやキーボードまでも音を奏でてしまう。
そんな徹兄は歌も上手い。当時の俺とは違ってすっかり喉仏が成長した徹兄だが、どういう訳か高い音を出すことが出来る。その高音は不愉快なものでは全くなく、むしろ心地よい憂いを言葉に乗せて、人々に届ける。
そんな徹兄に習って次第に音楽を奏でられるようになっていく過程は、とても楽しく、期待感に溢れていた。
指先に食い込む弦の重さは、音に色を付ける喜びを教えてくれる。
弾ける弦の振動は、飛び出した音に色がついたことを耳に届ける。
自身が生み出す音一つ一つが奇跡のように、新しい世界にのめり込む少年は心を躍らせていた。
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