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みえる、みえる。
僕にとって、西畑織絵は初めての彼女だった。
自慢じゃないけど恋愛に関しては奥手も奥手、けしてモテる方ではなかった文化系で草食系男子の僕。織絵という初めての恋人ができたのは、大学生になってからのことだったのである。
同じデザイン学科で、同じ文芸研究会の所属。物静かな文学少女といった出で立ちの彼女は、目立つ見た目ではなかったが何につけても誠実で一途な人だった。文化祭で出す部誌の準備も積極的にしたし、レポートで困っている後輩には積極的に手を差し伸べる。間違っていることは間違っているというけれど、どちらかというとリーダー役の人を立てるのが得意なタイプ。
僕としては、一緒にいて非常に居心地が良かったのである。幼い頃から強烈すぎる性格の姉二人に振り回されてきた身としては、押しの強い女性にはどうしても抵抗感――というか恐怖心が拭えなかったのだ。母も母で、かなりアレなタイプだったから尚更に。
言うべきことは言うけど、僕みたいな上手に意見をまとめるのが得意でない人間の気持ちも汲み取って尊重してくれる。最終的に家族になるなら彼女みたいなタイプがいい――なんて、付き合ってすぐに描いたほどの女性だったのである。
ただ、一つだけ。
「織絵さん?どうしたの?」
「あ、今ちょっと人に道を教えてて」
「……ひと?」
彼女は時々、妙な挙動をする。この時はそう、大学の前の道路でのこと。
彼女は誰もいない空間で、ずっと誰かと話をしていたのだ。僕の訝しむ態度に気づいたようで、はっとしたような顔をする。
「……えっと、ごめん。本気で気づいてなかった、今の」
彼女は、霊感と呼ばれるものがあるらしかった。
それも、並大抵ではないレベルの。
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