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そんな織絵を母に紹介したのは、付き合って二年目になってからのこと。お互い大学三年生だった。
「母さん、結構毒の強い人だから、嫌な思いするかもしれないよ」
「いいよ。春佳君のお母さんだもん、会っておきたい」
現在病気で入院している母は、身体が自由だった頃は非常に恋に奔放な人だった。僕と二人の姉、三人共父親が違うと言えば想像がつくだろうか。結婚して子供作ってすぐ離婚、を何度も何度も繰り返してしまう人。おかげで最終的に、僕達には父親と呼ぶべき人が誰もいない状態だった。僕が高校生くらいまで、母は家に当たり前のように男を連れ込んでいたほどだ。美人だったので、年がそれなりであってもモテたのだろう、きっと。
子供の頃一度だけ尋ねた事がある。なんで、お母さんは恋人をすぐに取り替えるの、と。すると彼女は吐き捨てるように答えたのだった。
『キモチイイことだけしてたいのよ、私は。恋人なんて重たいもの要らないわ。なのに、どいつもこいつも私に恋人になれって言ってくるんだもの。だから、重たくなってきたら取り替えることにしてるの。それが私の生き方だから』
性に奔放なのも少々行き過ぎているのでは。子供心にそう思っていた。なんせ幼い自分が家にいても関係なく、ベッドの上で派手にギシギシアンアンをやらかしていることが珍しくなかったものだから。
僕には一生母の気持ちはわからないだろう。それでも、想像つかないわけではない。
彼女は寂しい人だった。セックスに溺れてさえいれば、その寂しさを忘れることができたのだろう。まるで煙草を吸いすぎて身体を壊してしまう、チェーンスモーカーのように。
夜寝る時間も食生活も不規則。そんな生活が祟ってか、彼女は僕が大学生になると同時に入院。ほぼ寝たきりの生活を余儀なくされることとなった。しかし、体は動かなくても口は達者なので、僕や姉達が見舞いに来るとしょっちゅう要らぬ説教や毒を吐いてくる始末である。姉たちはもうそんな母をどこかで見限っているようだが、僕はそうではなかった。
どれほど冷たくされていようと、母親は母親だ。愛された記憶だって、まったくないわけではないのだから。
「……何?今日はあんたが来たの?」
見舞いに行けば。ベッドの上、上半身だけをどうにか起こして母は告げた。そして、僕の隣にいる織絵を見て眉を潜めたのである。
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