みえる、みえる。

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「春佳の彼女?随分地味な女選んだのね。洒落っ気のひとつもありゃしない。もっと派手でお洒落な子なんかいくらでもいるのに、見る目ないわね」 「母さん、怒るよ」 「何よ、あんたのために正直に言ってあげてるのに」  会ってそうそう、僕は彼女を連れてきたことを後悔した。母は男も女も、見た目とセックスが全てだと思っている。金さえ、自分が搾取される側にならないのならどうでもいいと言い放つ始末。今思うと、よくこんな女性の水商売の金だけで、親子四人暮らしていけていたなと思うほどである。 「それで、ヤることはやったの?本当に好きならさっさと連れ込みなさいよ、女だって結局みんなキモチイイことが大好きな、下半身の奴隷なんだから」  それは、彼女自身の体験談からも来ているのかもきれなかった。しかしだからといって、いくらなんでもこんな明け透けで生々しい言動は行き過ぎてる。病院であることを忘れて僕が母を怒鳴りそうになった時、“あの”とずっと黙っていた織絵が口を開いたのだった。 「あの……春佳君のお母さん。貴女は、自分が幸せだったと思いますか」 「え」  唐突すぎる問いに僕は毒気を抜かれ、母も完全に虚をつかれたように固まった。  そして僕は気づくのである。彼女が、母のベッドの向こう側を、どこか憐れむように見ていることを。 「……何であんな質問したの、織絵さん」  病院を出たあとで、僕は彼女に尋ねた。人が疎らな地下鉄。織絵は言葉を選ぶように、えっと、と歯切れ悪く話し始めたのである。 「春佳君のお母さん、離婚してるんだっけ?何回くらい?」 「ん?僕が知る限りでは三回だけど……ひょっとしてらもっと多いかも?それが?」 「その旦那達って生きてるの?」 「少なくとも僕の実の父さんは生きてるはずだよ、養育費送ってきてくれてるし……なんで?」  その先を尋ねるのは少し怖かった。でも、訊かないわけにはいかない。彼女はやや悲しそうに首を振って、そっか、と言った。 「……こんなこと、不謹慎なのわかってるけど。お母さん、長くないかもしれない」  彼女は僕の目を真っ直ぐ見て、告げたのだ。 「春佳君のお母さんのベッドの周り、ちっちゃな光みたいなのがたくさん浮かんでた。あれ、多分水子の霊だと思う。それに加えて、ベッドをぐるっと五人の男の人が取り囲んでたの……血の涙を流して、鬼みたいな形相で。その様子だと、あの中に春佳君の実のお父さんはいなかったんだと思うけど……」
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