霊感わんこ、カイロの冒険!

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 ***  前に、かいぬしがビビリながら見ていた(怖いなら何で見るんだ)心霊番組で知ったのだが。  どうやら、この世界には普通の人間には見えない“不思議なもの”がたくさんいるということらしい。それが幽霊なのか、妖怪なのか、妖精なのか、神様なのか、悪魔なのか天使なのか宇宙人なのか――正直それは僕にもわからない。というか、あっちにも分かってないことが多いらしい。  生まれた手の頃、部屋の隅でいっつも角に顔を向けて座り込んでいる、灰色のノッポの巨人がいて。僕はとても興味を持って話しかけたことがあるから知っている。 『ねえねえ、ノッポの巨人さん。なんでそんな風にしゃがみこんで、いつも部屋の隅ばかり見てるの?こっちに来て遊ぼうよ!』 『ああ、その声は子犬君かい?……ごめんよ、私はそっちには行けないし、君を振り返ることもできないんだ』 『なんで?』 『とっても恥ずかしいんだ。私の顔はとても醜いから君には見せたくないし、他の誰かにも見せたくない。顔を見た人を、恥ずかしさから殺してしまうかもしれないんだよ。だからずっとこうして部屋の隅を見ている。最近は私の姿が見える人は減ったのに、君には見えるんだねえ。不思議なことだ』 『そうなんだ。ということは、ノッポさんはニンゲンじゃないんだね。幽霊とかなの?』 『さあ、なんだろう?生まれた時から私は“こう”だったし、私と話せる存在も君を含めて数えるほどしかないから、私にも何もわからないなあ』 『へえ』  まあ、こんな具合である。友好的な態度ではあるが、彼はきっと僕が無理やり顔を見たりしたら、パニックになって僕を殺しに来るんだろうなと薄々察した。なんせ、その手には鋭いかぎづめのようなものが生えているし、体も僕よりずっと大きいのである。僕みたいなちっちゃな存在なんて、簡単にぺしゃんこにしてしまえるだろう。  でも、怖いとは思わなかった。誰だってされて嫌なことをしたら怒るに決まっているからだ。そこに無理やり踏み込む方が悪いのである。  それに、部屋の中にも庭にも、それこそブリーダーさんの家の外にだって不思議なものはたくさん闊歩しているのだ。部屋の中にそういう存在が複数いたって、僕にとってはその賑やかな世界こそ普通なのである。恐怖より興味が勝る頃からそれが当然のように見えていたということもあって、僕は彼等が怖いとはちっとも思わなかったのだ。  それは今も同じ。  かいぬしの家の元に来て、オカルトなテレビ番組を見てようやく答えらしいものが見えたけれど、ただそれだけである。彼等が人だろうとそうじゃなかろうと僕には関係ない。嫌がることをしなければ、基本彼等は何も怖いことなんかしてこないと知っている。それは、犬や人下相手でも同じことであるはずだ。 「よし、準備できた。行こうか、カイロ」  彼女はたっぷり二十分もかけて準備すると、僕のリードを持って玄関を出た。  ビションフリーゼのオス犬カイロ。それが僕の名前である。だっこしたらホッカイロのようにあったかかったから、というなんとも安易なネーミングだが良しとしよう。――まっちろけっけ、なんて名前をつけられてしまった兄弟犬よりはずっとマシなはずである。
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