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霊感わんこ、カイロの冒険!
いよいよ今日は、待ちに待った散歩デビューの日である。ビションフリーゼの子犬である僕は、喜びのあまり部屋の中をぐるぐると走り回った。今日までは家と庭以外だと、車に乗せられて外に行くか、抱っこで近所を散歩したくらいしかなかったのである。
せっかく僕達は、のどかな田園風景広がるのんびりとした町に住んでいるのだ。小さいからって、ずっと家の中だけで過ごさなければいけないなんてこんなつまらないことはない。僕は楽しみで楽しみで、早く行こうよとかいぬしに吠えまくっていた。
「かいぬし!かいぬし!はよリード!はよリード!」
「……ほんとあんた、好奇心旺盛よね」
この家の家主であるかいぬし(女性、二十八歳OL)は。テンションアゲアゲの僕を見て苦笑した。ちなみに、かいぬし、は旦那さんと一緒に住んでいる。旦那さんは消防士、とかいう仕事なので土曜日でも家にいないことが少なくない。よって今日の初めての散歩は、かいぬしと二人だけで行くことになる。カレンダーについている赤丸を見て、ぼくはずっとわくわくが止まらないでいたのだ。
かいぬしは気づいていないらしいが、犬ってやつはとっても頭がいいのである。生後三か月で、ぼくは人間の言葉は全部わかっているし文字も読めるのだ。まあ、英語ってやつはまだほとんどわからないけど、かいぬしが見ている英会話講座のテレビを横で見ていれば、ある程度わかるようになるんじゃないかなーなんて思っている。ふふん、犬の言葉がわからないニンゲンより、犬はずっと強いのだ。とびかかって押し倒す力もあるし鋭い牙もあるのに、ニンゲンを立ててわざわざ従ってやっているのだから、そのへん感謝してほしいものである。
え?わんちゅーるが美味しすぎて懐柔されてるだけだろって?いらんツッコミするなアホ!
「普通、初めてのお散歩ってもっと慎重なる犬が多いのに。なんであんたはそんなに嬉しそうなんだか」
僕の頭をナデナデしながらかいぬしは言った。
「リードが必要だってこともわかってるみたいだしね。……まあ好奇心旺盛で、社交的なのはあんたのいいところなんだろうけど」
「そりゃ、犬は賢いからな、ニンゲンよりもな!」
「ごめん、何言いたいのかわかんないわ。なんか人間の言葉話してるつもりだってのはなんとなく声から理解したけど」
「ちっがーう!犬の言葉を人間でもわかりやすいように話そうと頑張ってんの!なんでわかんないんだよこのアンポンタン!」
彼女は僕の体にハーネスを設置していく。勿論、僕の悪口なんて理解できているはずもない。ちなみに犬の言葉を翻訳する機械、なんてものもあるが。何故か僕が吠えると、あれもこれも全部“かいぬしだいすきー!”コメントに変換されてしまうという不具合が起きる。実に解せない。壊れてるんじゃないだろうか、アレ。
「好奇心旺盛なのはいいけど、ふらふら変なところに行かないでね。あとあんま強く引っ張らないこと。あんたはすーぐどっか行こうとするんだから」
彼女の言葉に、僕はふてくされたくなった。ふらふら行くも何も、僕の行きたい方向に全然ついてこないかいぬしがいけないのではないか。
そもそも。
――ふーんだ!僕の言葉がわかんないだけじゃなくて、僕と同じものが見えないかいぬしがダメダメなんだろ!
どうやら僕は、ニンゲンが見えないものが見えているし、聞こえないものが聞こえているいるし、嗅げない臭いも嗅げているらしい。
最初はそんなこともわからなかった。
僕が生まれて目が開くようになって早々。最初に見たのはお母さんの姿ではなく、僕の方をのっそりと覗きこむ目玉のついた植物だったのだから。
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