契約結婚相談所~私たちの普通~

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 本田(ほんだ)紗奈子(さなこ)はうんざりしていた。 「まだいい人いないの?」  なんの悪気も無さそうに、母が尋ねてくる。まるで尋問のようだ。さっきから会話の雲行きが怪しくなってきていたが、案の定だ。 「別に、いなくはないけど」  本当はいなくても、そう答えておくに限る。でないと、お見合いしろだとか、あそこの息子がまだ独身だとか、延々と訳の分らない男性を勧められることになる。 「だったら、そろそろ結婚するとかいう話にならないの?」 「まだ、そんなの考えてないって」 「全然早くないわよ。お母さんが紗奈子を産んだのなんか二十四のときなんだから。ぼんやりしてるともう三十なんてすぐに来るわよ。紗奈子だって、もう二十八でしょ? そんなことになったらどうするの?」  だから、年末年始なんか嫌いだ。自分の家のリビングでくつろいでいるというのに、他人の家のようだ。  どうにか理由を付けて帰ってこなければよかった。こうなることは予想していたはずだ。お盆はなんとか回避した。母の顔が見たくないという訳ではないけれど、電話口でも耳にタコが出来るくらい聞かされていることだ。  たまには実家に帰ったらのんびり出来るとか、学生時代の友だちに会えるとか、いいことだってある。だが、それが楽しいと思えるのを上回ってしまっている。  紗奈子は心の中でため息を吐く。 「姉ちゃん、まだ結婚しないの? 俺なんてもうすぐ父親になるってのに」  なんとなく自慢がかった声が掛かる。弟の伸吾(しんご)だ。 「お義姉さん、お茶ここに置いておきますね」 「ありがとう」  キッチンの方から現れたのは、お腹の膨らみかけた伸吾の奥さん、(かえで)だ。一応、紗奈子の義妹ということになっている。そして、この家に住んでいる。その事実に、紗奈子は未だ慣れることが出来ない。
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