214人が本棚に入れています
本棚に追加
☆
週に一度、水曜日が定休日だ。その日は保晴は大抵商談にでかける。
販売や買い取りだ。買い取り自体は国内のオークションも利用するが、多くは海外へ、年に2、3度赴き買い付けに行く。
今日は販売だ、都内の会社の役員室の提案に行くことになっていた。
朝、洗濯物を干していた。古い木造の建物だ、ベランダなどはなく、腰高の窓に設えた物干し竿に角ハンガーをかけていると、
「おはようございます!」
隣から元気な挨拶が聞こえる、郁美だ。ちょうど窓を開けたところだ、にこりと微笑み手にしていた角ハンガーを保晴同様物干しざおに掛ける。
「ああ、おはようございます」
保晴が答えると、郁美は再度目を合わせて微笑んだ。
綺麗な笑顔に心が奪われる。
(ああ、そうか、今日は玲ちゃんは学校で……)
部活も終えて夕方に帰宅する。郁美は店が休みの時は、それでも工房に顔を出して職人にあれこれ聞いているようだ。
勉強熱心だと思った、今日もそうするのだろうか。
「あの……郁美さんがよかったら、今日の商談に一緒に来ますか?」
聞けば郁美はきょとんと首を傾げた。
「あ、いえっ、あの、仕事ですからお給料は出しますよ! もしお暇でしたらで! 玲ちゃんが帰ってくるまでには戻れますから!」
なんだかデートの誘いのようだと思いながらも保晴は誘っていた。
「その、郁美さんは勉強熱心ですから……これも勉強かと……」
しどろもどりなりながらも誘うと、郁美の顔がぱあっと明るくなった。
「嬉しいです、お邪魔でなければ行きたいです!」
邪魔ならば最初から誘わない、そう思いながらあと1時間ほどしたら家を出たいと伝える。
最初のコメントを投稿しよう!