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☆
執務室に家具の提案をする、置き場所の寸法を測り、店で扱っている商品の写真を見せ、見積もりを渡して検討してもらう作業だ。2時間ほどで仕事は終わった。
「さて、お昼には早いけど、どこかで済ませましょうか」
車に乗り込みながら保晴が提案した。
「はい、でも……」
覇気なく言ったあとが続かない、その意味を保晴はなんとなく理解した。
「大丈夫ですよ、奢ります」
「え、いえ、そんな、大丈夫です」
言いながらも外食などうしろめたいのは、長年の節制生活のせいか。しかし今はありがたいことにそんな安い時給で働いているわけでない、しかし少しでも多くお金を貯めたいのは事実だ、どうしても弱気になる。
「いえいえ、これも仕事の一環ですから」
「え、経費で落とされるんですか?」
「とんでもない、僕のポケットマネーですけど。あなたよりは稼ぎはいいですよ、気にしないでください」
保晴は笑顔で誘った、そんな高級店に行くつもりはない、遠慮などしないでくれと思った。
そしてファミリーレストランへ入り、やはり郁美は遠慮してかお手軽なランチセットを頼んだ。もちろんそれで腹は膨れるだろうが、保晴は自分も食べたいからと食後のデザートにプリンをふたつ頼む。
「ありがとうございます、おいしいです」
郁美は涙声になりながら礼をいう、もっと高価な食事をしてならばまだしも、むしろ保晴は恥ずかしくなってしまう。
「ああ、今度、玲ちゃんも一緒に、食べに来ましょうね」
郁美ひとりに楽しい思いをさせてしまったのだと後悔した。
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