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「そんな……あ……あ、あ! よかったら、お礼に、お夕飯を御馳走させてください」
「え、そんなお礼だなんて」
たかがファミレスに、と本当に恥ずかしくなった。
「いいえ、ぜひ。私の気持ちが済みませんから」
そんな申し出に、保晴はありがたく、その晩夕飯を食べに隣の部屋を訪ねる。
郁美はいつも19時頃に一度休憩を取り、玲が作った夕飯を食べて20時半の閉店後の片づけまでいてくれるが、お店が休みの日は郁美が作るのが常だという。数日持つような常備菜も作って置いておく。
炊き立ての白米とアサリのお味噌汁だけで感動してしまった。男のひとり暮らしだ、外食が多いだけならまだしも、自宅でもレトルトや総菜が多い。
カレイの煮つけに感動した、とてもおいしかった。
「ああ、いいですねえ。手作りのご飯は。心が温まる」
ずいぶん久々に家庭的な食事を摂ったような気がする、もちろん定食屋でも味わえるものだが。
「玲ちゃんが作ってくれた卵焼きもおいしいね」
いうと玲はにこりと微笑んだ。まだ中学2年生だが、母ひとり子ひとりだからだろうか、料理の腕は確かなようだ。
静かな食事の時間を三人で、ゆっくりと楽しんだ。
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