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☆
店休日に面接をした。ふたり目に来たのが、長友郁美だった。
面接に際してはありきたりな質問しか出ない、雇う側になると何を基準にしてよいかわからぬものだと保晴はいつも思う。正直第一印象くらいしか頼るものがない。
それでいえば、郁美はとても好印象だった。
美人で笑顔も嫌味がなく、物腰も柔らかい。だが対面での販売の経験はなく、家具に限らずアンティークの知識もないと、自ら告白していた。
(……母子家庭、か)
履歴書を見て思った、ならば雇ってあげねばという責務すら感じてしまう。
子供の名は『玲』、14歳、川崎市立の中学2年と書かれていた。
職歴の欄には、現在の仕事でファミリーレストランのウェイトレスと新聞配達員をやっていると書かれていた。
「これらの仕事は引き続きになりますか?」
「あ、いえ」
郁美はすぐに答えた。
「今は川崎に住んでおりまして、仕事場も川崎です。こちらから通うのは無理があるので、どちらも辞めます」
はきはきしている、それすら好印象だった。
「辞めるというお話は済んでいますか?」
これからならば辞めるまでの間、少しくらいこちらで働くのが遅くなってもと思い聞くと。
「はい、いつでも相談に応じると……あの、実は……わたくし、ストーカーに、遭っていまして」
「……え!?」
保晴が大きな声で聞くと、郁美は困ったように微笑んだ。
「はい、あの……実はわたくし、長く水商売で……風俗で、働いているんです」
「え!?」
さらに大きな声になってしまった、清純とも見える女性が風俗で働いているとは、とても見えなかった。
「こんなおばさんが、とお思いでしょう」
恥ずかし気に言われ、保晴は慌てて首を左右に振る。
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