1. 出会い

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「履歴書のとおり、わたしくは母子家庭です。やはり不自由なく生活するのに一番手っ取り早く稼げるのは、悲しくもその手の仕事です。娘が小学生に上がったころからその道に──もちろん娘にも、周囲の方にも知られたくないと、レストランや新聞配達の仕事をして、その隠れ蓑としていました」 朝、新聞配達をし、子供を送り出すと風俗店へ行き数時間働いた後、再度新聞配達をして子供と夕飯を食べて、2時間ほどファミレスで働く生活だった。 保晴は風俗など、若い女性の仕事だと思っていた。もちろん郁美も若く美人だが、しかも経産婦など──と思っただけだが、郁美はにこりと笑って答える。 「わたくしも初めはこんな体が、と思ったんですけど、意外と需要はあるからと喜ばれました、昼間働いてくれるのは案外ありがたいのだと──娘が小さい頃はスナックやキャバレーというところで働いていたんですけど、お酒はそうは飲めないし、おしゃべりもそんな得意ではないと思い、あとは子供が大きくなってくると、真夜中に子供を託児所から連れて帰るのも大変になってしまって。昼間もやっているファッションヘルスというものに飛び込んだんです、子供が学校に行っている間に働けるのは理想でした──ところがここ数年、とあるお客様につきまとわれるようになってしまいました」 保晴はうなずいてしまう、こんな美女とそのような行為ができるなど、勘違いしてもおかしくない。 「怖くなって辞めましたが、私も馬鹿ですね、またその手の仕事に就いて──でもまもなく見つかってまた連日指名を受けることになりました。金はやるからと本番を迫られて……あ、本番はお店は表向きは禁止していますが、実際には黙認で──私は絶対に嫌だったので、頑なにお断りしていました。ところがその方は本当に怖しつこくて……逃げるように店を移るのですが、いつもすぐに見つけられてしまいます。それはそうですよね、嬢は写真で指名をするじゃないですか、その写真は店頭やネットに出ますので簡単に見つかりますよね」
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