9. 新しい出会い

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9. 新しい出会い

しかし、それでも玲の体内に新しい命は宿らなかった。 誰よりも子を欲していた玲が落ち込む姿を見たくなかった。 再度別人と交渉するか、あるいは養子をもらおうか──そんな話をぽつりぽつりとし始めていたが、気が付けば当の玲がその話をしなくなった。 はてと保晴は思う。 今は傷が深すぎてその話はしたくないのか、あるいはもう子は諦めたのか。 もし自分と夫婦でいることにも諦めがついたのならば、早めに別れを告げよう。玲はまだ若い、新しい伴侶に恵まれればそれが一番だ。ならばいつまでも自分のそばにいることはない、店の仕事も辞めてどこかにバイトにでもいけば──と思っていたが、妙に玲の機嫌がいい。 今も鼻歌交じりに家具についた埃を羽箒で払っている。 その時空気が震えたのがわかった、玲が手を止めエプロンのポケットからスマートフォンを取り出す──それすら少し前までは、店ならレジの周りに置いていたのに、今は肌身離さず持っている。 「あ、ちょっとお買い物、してきちゃおうかなー」 玲がスマートフォンをポケットにしまいながら言った。 その買い物も。 やはり郁美の事故の影響だろう、玲はひとりで買い物には行きたがらなかったものだ。必ず店が休みの時や、仕事終わりに一緒に行っていたが、それがここ数日はひとりでふらりと行ってしまう。 胸騒ぎがした、それを確認したかった。
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