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店を出た玲は足取りも軽くスーパーへ向かう、近所では一番大きなスーパーだ。
なんだ杞憂か、そう思ったのに、玲はスーパーには向かわず、通りをまっすぐに歩いていく。
胸騒ぎがした、心が確認してはいけないと警告する、だが玲の背中から目が離せなかった。
石川町駅の北側にはラブホテルが立ち並ぶ一角がある、そのひとつに玲は迷うことなく入って行く。誰かと一緒ではないが、こんなところへひとりで来るはずがない──中で待ち合わせをしているのだと確信した。
そうか、次の想い人が──。
納得したが、捨てられる恐怖のほうが勝った。いつ別れてもいいと思っていたのに、いざそれを突き付けられるとこんなにも怖くなるとは、情けなくなる。
相手はこれから来るのか……そんな男と鉢合わせはしたくないと、保晴は慌てて店へ戻った。
思考は、千々に乱れた。
玲の将来を思えば、早々に別れるべきだ──いや、大切な玲を手放したくない。玲の一生は自分で見届けたい。
年老いた自分などより、若く立派な男を選んだのならば玲を褒めてやるべきだ──いや、どんな相手かもわからない、そんな男に大事な玲を任せることはできない。
家族が、子が欲しいという玲の願いを叶えてやれる相手ならば、託すべきだ──いや、もしかしたら自分より年上の男の可能性だってあるじゃないか。
なぜ玲は何も言わない──自分への配慮か、あるいはこれからも利用しようとしていうのか──それならそれでも構わない、玲がそばにいてくれるなら。
だが、玲の幸せを望むならば──。
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