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「琉唯くん、さすがにこれはおじいちゃんも読めないなあ」
もちろん日本語だ、読むには読めるが、意味は全く分からないだろう。
「また眠くなってしまいそうだ」
午睡の誘いに抗えそうにない。
その時、
「んもう、邪魔だよぉ」
玲の甘えた声がキッチンからしてきた、見れば洗い物をしている玲を光輝が背後から抱きしめ腹を撫でていた。
まだ目立たないが、そこには次の命が宿っている。それを愛おしそうに撫でる光輝と、口では嫌がりながらも嬉しそうな玲の笑顔に、保晴まで幸せな気持ちになる。
やはり決断は間違えていなかったのだ。
琉唯が読書を今か今と待ち、キラキラとした目で見上げていること気づき、そっとその髪を撫でた。
「よしよし、もう少し琉唯くんがワクワクしそうな本を──」
参考書は目の前のローテーブルに置き立ち上がろうとすると、本の隣にあるスマートフォンが電話の着信を知らせた。画面にある『江川さん』の文字に、琉唯にちょっと待っててねと伝え、それを手にする、光輝の両親からの電話だ。
時候の挨拶から始まり、お中元が届いたと礼がある。光輝の両親は愛知に住む、関東よりも遅く7月半ばからがその時期らしいと、百貨店の人に教えてもらって知った。
『今年も、お盆休みにお邪魔しても大丈夫ですか?』
光輝の母からの願いに、保晴はもちろんですと答える。琉唯が生まれてから毎年のことだ、琉唯の誕生日プレゼントもその時に持参してくれる。お正月休みは玲たち家族が愛知まで行くのが慣例となりつつある。
保晴は電話を切ると、キッチンにいる玲たちに声をかける。
「お盆休みに光輝くんの家族が来てくれるよ」
玲が「はーい」と返事をした。
「え、来なくていいって言っておいたのに」
光輝が声を上げる。
「そうは言っても、琉唯くんに会うのも楽しみなんだろう」
「そうですけど、正月には行くからって言ってありますよ」
「それはそれだろう、この時期の子どもの成長は目覚ましい、年に1回より、2回会ったほうが楽しみも増えるだろう」
保晴の言葉に、光輝は納得しない様子でも「そうですね」と応えた。
「さて、お布団を用意しておくか」
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