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こいつか、と保晴は内心思う。この男が郁美にストーカー行為を働いているのだ──恫喝でもしてやろうかと思ったが、ここは他人のフリに限ると、にこりと微笑んだ。
「はい、便利屋でして。こちらの家の方が故郷に帰られたので、部屋の物をすべて処分してほしいと頼まれました」
男の眉が吊り上がった。
「故郷に帰った~?」
「はい」
保晴は微笑み答える、両脇に立つ男女の従業員もうんうんと頷く。
郁美が風俗で働いていたことまでは知らせていないが、ストーカーから逃げてきたことは話した、そのため夜逃げのように引っ越しをすることも。
「それはどこだ!」
「そんなこと、個人情報ですので、お教えするわけには」
知らないと答えてもよかったが、それでは仕事を依頼されて知らないわけがないだろうといわれてしまうと判じた。
「ご依頼者さまはストーカーに悩まされ鬱にまでなってしまい、社会生活が送れなくなってしまったので、ご両親を頼り故郷に戻られたそうで」
はあ、とため息交じりにいった。
「──まさか、あなたさまが、そのストーカーですか……?」
おどおどと聞くと、男はふんと鼻息も荒く言い返す。
「俺は友達だ! アユミは俺を頼ってくれたんだ!」
男が叫ぶ名を聞き返そうとしてやめた、源氏名だろうとすぐにわかる。
「そうでしたか、それならきっと落ち着いたらご連絡があるでしょう。私からもお友達が心配していたとお知らせしておきます」
言われ、男はやや落ち着きを取り戻した、だが作業から目を離すことはなかった、それどころか手伝うといって室内にまで入ってこようとする。
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