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「すみません、それはお断りします」
やんわりと断ったが、男は憤慨する。
「ひとり人手が増えれば、助かるだろう!」
「我々は日ごろからその手の鍛錬をしております、そこにド素人が入ってこられても迷惑です」
「じゃあ、お兄さん」
会話に割り込んできたのは、工房の職人でも特に体格のいい男、須山だった。
「これ、運んで」
縦横はさほど大きくはない段ボールである、ほらと差し出しされ、受け取った男は重さに驚き落としかける。
「な……っ、ん!? お!? は!?」
鉛がびっちり詰めれているのではと思えるような重さだった。
「わかったでしょう、この作業はそんな簡単じゃねえんだよ」
須山は言い捨てて、それをひょいと受け取ると軽快に階段を降りていく、男は大きな舌打ちで応じた。
(ありがとー、須山くーん)
トラックに乗せると、須山は休むことなくまた階段を上がってくる。
「なあ、処分っていうなら、捨てちまうってことだろ、これ、もらっていってもいいか」
服、と書かれた段ボールを指さした。
「駄目ですよ」
保晴が答える。
「俺が買い取ってやる、金になれば文句はないだろ」
「駄目──」
そこに割り込んできたのは、女性社員の村上だ。
「勝手に持って行くなら警察を呼びますよ。ごみ集積所から持っていくのも犯罪ですし、私たちはゴミとして捨てるわけではないんです。ゼムクリップひとつでも持って行けば盗難とみなします」
言い捨ててその箱をさっさと持って行ってしまう。
(ありがとう、村上くん)
小柄な背中を頼もしく見送った。改めて郁美の事情は話したうえで皆を連れてきてよかったと思った。
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