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2. 進展
郁美は初めこそ家具やアンティークの知識はなく、接客にも緊張した様子だったが、慣れてくれば分からないなりにも丁寧に応対するのが好印象だった。
風俗で働いていたとは思えない清純さだ、従業員の誰もそんなことに気づいていないだろう。時折工房にも顔を出し職人たちと質問をしたり会話を楽しんでいるが、誰ひとりいやらしい視線を向けることもなく、話を振ることもない。
これでいかにも好色で金がほしいと騒ぐ女ならば男もその程度の扱いだろうが、郁美のような女性では、勘違いをしてストーカーのような行動に出てしまったのだろう。
守ってやりたいと、思わせるには十分な女性だった。
「いらっしゃいませ」
にこやかに客を出迎える、それだけで一輪の花が咲いたようだ。
若い男女の客に続いて、中学の制服を着た少女が入ってくる。
「おかえりなさい」
郁美の娘、玲だ。
「ただいま」
郁美がポケットに入っていた部屋の鍵を手渡す、それを持つと玲はいったん店を出て、外階段を上がり二階の部屋に向かう。鍵は予備はあるが、郁美はまだそれを渡していなかった、ちゃんと挨拶をしたいという親心だ。
2階の社宅は全部で5室、店長である保晴も住んでいる。1Kと決して広くはない部屋だが、母子ふたりで住むには十分だった。
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