2020年1月23日(木)-3

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2020年1月23日(木)-3

「じゃあ○子ちゃん、お姉さんが今からこのわっかをくるくる~って動かすから、穴が空いているほうを、これで同じように動かしてもらっていい?」  看護師さんの手にあるのは視力検査表でおなじみ、一部だけ欠けている黒いわっかが描かれた紙。そして娘の手にも同じものが渡っていた。  どうやら奥にある縦長の検査表は使わず、看護師さんが動かすその紙を見て、穴が空いているほうに自分の手元の紙を動かしてくれということらしい。  椅子に腰かけ、少し遠くに行った看護師さんが紙をハンドルのように動かすのを見て、娘も楽しくなったらしく、自分の手の中の紙をひょいひょいっと動かしていた。  わたしは娘の背後1メートルにいたので、娘の回答が合っているかはわからない。  看護師さんはその後どんどん小さな紙に変えていき(当然、書いてあるわっかも小さくなる)、「はい、いいよ。じゃあ今度は反対の目をやるね」と言ってきた。そして娘の眼鏡を取り上げ、今度は反対側に黒のフィルターを押し込む。  もう一方の視力検査も無事に終わり、「では最後に先生の診察になるので、奥の部屋の前でお待ちください」と言われた。 「○子ちゃん、お疲れ。全部のわっかの穴、見えた?」 「うん、見えたよ。でも最後の一個だけがわかんなかった」  とケロッと答えて笑う娘。  すごいな、わたし眼鏡かけて両目で見ても、最後のいくつかは小さすぎて、どこに穴があるかちっとも見えなかったのだが。  娘はきちんと見えたこともそうなら、片方だけ真っ黒になる眼鏡をかけるのも楽しかったらしくご満悦顔。  あの視力検査のやついいよな~。小学校でもあの方式を採用してほしいくらいだわ、と思いつつ待っていると、院長が待つ奥の診察室に呼ばれた。 「はい、こんにちは。じゃあシールを選んでいいからね」  とおじいちゃん先生はまず娘にシールを選ばせる。娘は嬉しそうにシールを選び、それを握りしめた状態で、また機械の前に顎を乗せておとなしく前を向いていた。  そして肝心の視力検査の結果は……。 「うん、お嬢ちゃん、視力全然問題なし! どっちの目も1.2で、とってもよく見えているから大丈夫です!」  とのこと。よかったぁ、見えていたのか。youtube漬けで視力マジで下がっているのだとばかり……。  笑顔の先生は進学予定の小学校の名前を聞き、納得したようにうなずいた。 「ああ○○小学校ね~。あそこ、僕が担当なんだけどね、検査表がもうボロボロでくすんでいるから見えづらいんだよ~! だからお嬢ちゃん、次に小学校で検査するときはね、気合い、気合いよ! 気合いを入れてじーっとよく見れば、ちゃんと見えるからね! はい、問題なしです。おしまーい!」  笑顔でおしまいが告げられた。 (というか、医者に行って『気合いだー!』って、某レスリング選手のお父さんみたいな助言を受ける日がくるとは思わなかった)  半ば呆然としてしまうが、娘は先生に「小さいところまでちゃんと見えていたね。偉いね~!」と褒められてまんざらでもない顔をしていたからよしとしよう。 (とはいえ実際に視力が悪くなるのも時間の問題だろうなぁ)  待合室に戻ってお会計を待ちながら、ついそんなことを考えてしまった。  視力はどうしても遺伝しがちなものらしい。両親とも眼鏡をかけている我が家では、子供たちも同じようになるのはもう目に見えている。わたしも夫も、その両親も兄弟姉妹も、全員眼鏡かコンタクトだから筋金入りだ。  そしてデジタル器具があふれているこの世の中。すでにyoutube漬けで、中学に入ると同時、ヘタしたらその前からスマホを持つのが当たり前の世代に生まれた我が子たちが、眼鏡を通らずに生きていけるはずがないとさえ思える。 (せめて小学校のあいだは眼鏡なくても大丈夫だといいなぁ)  そんなことを思いつつ診察券と保険証を受け取り、預かり保育でふて腐れているであろう息子を迎えに、幼稚園に車を走らせるのだった。
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