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おばあちゃん家の物置小屋
「ありゃ、しーちゃん?しーちゃん?どこさ行った?」
おばあちゃんは孫のしーちゃんがどこかへ行ってしまったので心配になりましたがもしやと思い離れの物置小屋に様子を見に行きました。
物置小屋と言ってもとても立派な瓦の屋根で扉にも鳳凰の彫刻の施された立派な作りで言われなければそこが物置小屋だなんでだれも思いません。
その鳳凰の扉が少しだけ空いているのでおばあちゃんは中を覗き込みました。
「しーちゃん!」
「あ、おばあちゃん」
「だめよ、しーちゃん黙って入ったら、怪我したらどうするの?」
はたしてそこに居たしーちゃんは不思議なことを言い出します。
「おばあちゃん、私思い出したみたい」
「何を?」
「昔の事」
「昔、ってまだしーちゃんは子供でしょう?赤ちゃんの時の事?」
おばあちゃんは笑いそうになりました。
「ううん、もっと昔、もっともうっと昔だよ」
「ええ?」
「侍とか大名とかが居て」
「え?侍?大名?」
おばあちゃんは何かの夢でも見たのか、あるいはどこか頭でもぶつけたのかと思って心配になりました。
「そう、沢山の人の前でうたをうたったんだよ」
そう言って目をキラキラさせているしーちゃんの手には鳳凰の絵柄の描かれた一振りの扇子が握られていた。
「しーちゃん、それはダメよ戻しなさい」
「いや、これは私の」
「だめよ」
「だめも何も」
「本当に」
そう言っておばあちゃんが取り上げようとするとしーちゃんは扇子をバッと開き顔の下半分を隠しながら睨みつけた。
「無礼者!ここな扇子を誰のものと心得るか!これはあのお方から譲り受けし、、、」
「あの方?」
「あの、おかた、、、」
言うなりしーちゃんはゆっくり倒れて来たのでおばあちゃんは慌てて支えて直ぐに救急車を呼びました。
しかし、気絶してるにも関わらずしーちゃんは扇子を離さなかったので仕方なくおばあちゃんは家宝のその扇子をしーちゃんにあげる事にしました。
「本当に良いんですか?」
しーちゃんの母親はおばあちゃんにたずねました。
「いずれはあげるつもりだったからね、それに」
「それに?」
「……あ、いやなんでもないよ」
そう言っておばあちゃんは笑い皺をつくりました。
扇子を広げた時の孫の何とも形容し難い迫力について誰かに話すのはしーちゃんにとって良くないと考え直したのです。
「本当にこの子は昔から変に頑固なところがあるのよねぇ」
そう言って母は寝ているしーちゃんに目を細めるのでした。
「詩華、後でちゃんとお礼を言うのよ」
聴こえてない筈のしーちゃんの手がピクリと動きました。
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