壊れる日常

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私、仁科由衣(にしなゆい)は大学2年生だ。 都内にある、あまり名は知られていない学校に通っている。 家族間の仲は良く、ケンカというケンカはあまりしたことがない。 兄弟間でケンカはしても、お互い一日寝てしまうと怒りを忘れてしまうタイプなのでケンカが長続きしたことはない。 他人に家族の話をすると、大体「仲が良いんだね」と言われるような、そんな家庭だった。 この日私の取っていた講義は午前までだった。 家族の誰よりも早く帰宅する私は、今日夕方まで仕事のある母に変わり、晩御飯の支度を任されていた。 確か鶏肉が余っていたので、今日は親子丼にしようかな。 そんな事を考えながら帰り道のスーパーで足りない食材を買い、家に帰宅した。 家の鍵を差し込んで違和感に気付く。 鍵が開いている。 誰かがもう家に帰ってきているのか? そう思い玄関を見ると、ローファーが二つ並んでいた。 直樹と誰か友達が家に来ているようだ。 しかし、今日は普通に夕方まで学校ではなかっただろうか。 まさかサボり? 真面目な直樹に限ってそれはないと思いたいが…。 リビングに買い物袋を置き、背負っていたリュックを降ろそうと、2階に向かった。 直樹の部屋と隣にある自室の前まで来て、その扉を開く。 そこには扉を背にして直樹が立っていて、床には直樹と同じ制服を着た男の子がうつ伏せに横たわっていた。 2人が私の部屋にいる理由が分からなくて、素直な疑問を口にした。 「何してんの?」 その声に、直樹は肩を大きく震わせると、勢いよく振り向いた。 私の存在に今初めて気が付いたような様子だ。 「あ…姉ちゃん…」 直樹はそう小さく呟くとあからさまに目を泳がせた。 「友達どうしたの? 体調でも悪いの?」 「あ、いや…」 しどろもどろに話す直樹を無視して、床に横になっている男の子に近寄る。 「大丈夫? もしあれなら直樹のベッドで横になったら?」 そう言って彼の肩に触れ、身体の体制をうつ伏せから仰向けに変えようと力を入れる。 しかし彼の身体はだらりと垂れ、全く力が入っていない。 もしかして寝てるのかな、と思い直樹にも手伝わせてなんとか彼の身体を仰向けにした。 そこでようやく気が付いた。 彼の顔が腫れて、その首元には何か太いヒモ状のうっ血痕があることに。 はっとして振り返ると、直樹の足元には自身の腰に巻いていただろうベルトが転がっていた。 恐る恐る彼の手首を触るが、脈は感じられなかった。
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