壊れる日常

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嫌な想像が頭の中を駆け巡る。 先程の表情から言って直樹がこれに何か関わっているのは確実だろう。 事故か事件なのかは分からないが、どちらにせよ罪に問われかねない。 直樹が逮捕されれば家族はどうなる? 警察官である父はクビになることはなかったとしても、仕事場に居づらくなるだろう。 正義感が強く警察官という職に誇りを持っている父が、仕事を辞めるなんて考えたくない。 精神的に強いとは言えない母は、自分の息子が殺人を犯したなんて知ったら、精神を可笑しくしてしまうかもしれない。 世間からの非難の目と、罪悪感から最悪自殺してしまうかも。 直樹にしたってそうだ。 私よりも頭が良くて両親の期待を背負っている直樹が逮捕されれば、大学受験どころではない。 ならば私が身代わりになるか? いや、私が代わったところで家族が犯罪加害者となるのは変わらない。 嫌だ。 家族がいればそれで幸せだと思っていたのに、こんなことで失うなんて嫌だ。 例えなにを犠牲にしてでも、今のこの幸せを壊したくない。 例え他人の幸せを奪ってでも。 私はおもむろに横たわる彼に馬乗りになり、そしてその首を思いっきり絞めた。 力のない皮膚が、指に絡みつく。 彼の首元のうっ血痕を更に濃くして、後ろで立ち尽くしていた直樹に向き直った。 「この子、たまにうちに遊びに来ていた子だよね。なんて名前だったっけ?」 「…健吾。江藤(えとう)健(けん)吾(ご)」 「そっか。健吾君だったね」 私は覚悟を決めるように、息を深く吸った。 「じゃあ、下に降りて布団圧縮袋と掃除機取ってきて。押入れの下の方にあると思うから」 「え、」 驚いたような顔をする直樹を、真剣な眼差しで制した。 「夕方にはお母さんが帰ってくる。それまでにこれを一時的に隠すの」 私の言葉に直樹は何かを感じ取ったのか、すぐに部屋を出て行った。
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