壊れる日常

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私たちは彼の死体を布団圧縮袋に入れ、中の空気を抜いて出来る限り真空にした。 そして一時的な隠し場所として私のベッドの下に隠した。 手短に晩御飯の支度を終え、直樹から話を聞くためにリビングに呼んだ。 「今日は学校じゃなかった?」 「いや、今日は創立記念日で休みだったんだけど、学校に着くまで忘れてたんだ」 「健吾君とはどこで会ったの?」 「健吾も俺と同じで今日学校休みなのを気付かずに登校してた。校門前で会って、遊ぶ約束をした」 「うちで遊ぼうって誘ったの?」 「健吾の方からうちで遊びたいって言ってきた。あんまり金もなかったし、すぐに了承した」 「うちに来て何があったの?」 それまで小さい声ながらも淡々と話していた直樹が、少し口籠った。 そして両手を緩く繋ぎ、俯きながら答えた。 「キッチンに飲み物を取りに行って部屋に戻ると、あいつは部屋にいなくて、隣の姉ちゃんの部屋にいた。何してたんだって問い詰めたら、あいつのポケットから小型の隠しカメラが出て来たんだ」 「え、」 直樹の言葉に私は絶句した。 隠しカメラ? そんなもの一体いつから取り付けられていたのだろうか。 健吾君は直樹とは高校1年生の頃からの付き合いだった筈だ。 まさかその頃から? 考えるだけでもゾッとする。 「俺の家にたまに遊びに来たがっていたのは、隠しカメラの回収と取り換えが目的だったんだ。それから言い合いになって、このことを警察に言うっていったら、あいつ物凄い剣幕で襲い掛かってきて、揉み合いになってそれで…」 「健吾君は手に何か持ってた? ナイフを持ってたとか」 「いや、何も持ってなかったと思う」 直樹の声はそこで途切れ、無言になった。 素手か…。 直樹の話を聞き終わり、聞いた話を頭で反復しながら考え込んだ。 直樹が腰に巻いていたベルトを持っていたのに対して、相手の健吾君は素手だった。 正当防衛が成り立たないだろうかと淡い期待を持っていたのだが、直樹がベルトで絞殺したのは、過剰防衛とみなされる可能性が高いのではないだろうか。 警察官である父に聞けば一発で分かる事だが、こんな話出来る筈もない。 そう言えば、隠しカメラを仕掛けていたという話だったので、その映像を見れば事のいきさつがより明確にわかるだろうか。 しかし正当防衛が認められない可能性が出てきた以上、警察に届け出るという選択肢は完全に消え去ってしまった。
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