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◇
「どう、けっこういい部屋だろ?」
綾知さんに連れて来られたのは、
いつかのラブホテルでも、シティホテルでもない。
マンションの一室。
私は綾知さんに案内されて、そのマンションの部屋のリビングへと通された。
間取りは1LDKみたいだけど、
とても広々としている。
「千花、ずっとそんなに怯えて。
タクシーの運転手も、ちょっと不審がってた」
それが困るというより、それを楽しんで笑っている。
あの後、近くに居たタクシーを捕まえて、この人にこの場所へと連れて来られたけど。
「千花、何も訊かないけど、気にならないの?
この先、何が始まるのか?」
"ーーじゃあ、今日辺り、子供を作る為にセックスしないとーー"
頭に浮かぶのは、先程聞いたその言葉。
「この部屋、何年か前に買ったんだよ。
時々、一人で過ごしたい時とかに来てる」
このマンションは、私達の勤めるベリトイから近い。
タワーマンションではないが、高層マンションの類いで、この部屋は最上階だった。
「この部屋を、ホテル代わりみたいな形で使うとは思わなかったけど」
その笑った顔に、鳥肌が立つ。
その時、部屋に来客を知らせるチャイムが鳴り響く。
綾知さんは、モニターへと行き、その来客を招くように、オートロックを解除した。
「玄関のカギは開いてるから、勝手に入って来い」
そう言って、通話を切った。
なに?この部屋に、誰かが来るの?
「千花には、まだ話してなかったよな。
何故、結婚相手に、君を選んだのか?」
「…はい」
そう言えば、それをちゃんと聞いていない。
何故、私なのか?と訊いた時。
"ーーそれは、そのうち話すよ。
憎いと思う、君が良かったからーー"
初めて社長室へと呼ばれた日、そう言っていたのを思い出した。
先程、これは子供を作る為の結婚だと言っていたけど。
それ以外に、意味があるのだろうか?
「客人が来てから、話すよ」
そう微笑む、綾知さん。
本当に、この人の笑顔が私は怖い。
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